商業登記 ゲンロン

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旧 民 法


(明治31年6月21日法律第9号)









改正:
  1. 明治35年第37号
  2. 大正14年第42号
  3. 昭和16年第21号
  4. 昭和17年第7号









1943年10月発行の六法に合わせた。










巌松堂書店編輯部/新体六法全書/巌松堂書店/1943/インターネット公開(保護期間満了) (国立国会図書館 デジタルコレクション)

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1445803/141

大正15年2月8日有斐閣「帝國六法全書」 (第一コンサルティング株式会社)

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註.読みやすくなるように、テキトーに変更してある。

  濁音、送り仮名、アラビア数字・・・。










第4編 親族








 第1章 総則








第725条

 左に掲げたる者は之を親族とす。

  1.  6親等内の血族

  2.  配偶者

  3.  3親等内の姻族



第726条

  1.  親等は親族間の世数を算して之を定む。

  2.  傍系親の親等を定むるには其の1人又は其の配偶者より同始祖に遡り其の始祖より他の1人に下るまでの世数に依る。



第727条

 養子と養親及び其の血族との間に於いては養子縁組の日より血族間に於けると同一の親族関係を生ず。


第728条

 継父母と継子と又嫡母と庶子との間に於いては親子間に於けると同一の親族関係を生ず。


第729条

  1.  姻族関係及び前条の親族関係は離婚に因りて止む。

  2.  夫婦の一方が死亡したる場合に於いて生存配偶者が其の家を去りたるとき亦同じ。



第730条

  1.  養子と養親及び其の血族との親族関係は離縁に因りて止む。

  2.  養親が養家を去りたるときは其の者及び其の実方の血族と養子との親族関係は之に因りて止む。

  3.  養子の配偶者、直系卑属又は其の配偶者が養子の離縁に因りて之と共に養家を去りたるときは其の者と養親及び其の血族との親族関係は之に因りて止む。



第731条

 第729条第2項及び前条第2項の規定は本家相続、分家及び廃絶家再興の場合には之を適用せず。








 第2章 戸主及び家族








  第1節 総則








第732条

  1.  戸主の親族にして其の家に在る者及び其の配偶者は之を家族とす。

  2.  戸主の変更ありたる場合に於いては旧戸主及び其の家族は新戸主の家族とす。



第733条

  1.  子は父の家に入る。

  2.  父の知れざる子は母の家に入る。

  3.  父母共に知れざる子は一家を創立す。



第734条

  1.  父が子の出生前に離婚又は離縁に因りて其の家を去りたるときは前条第1項の規定は懐胎の始に遡りて之を適用す。

  2.  前項の規定は父母が共に其の家を去りたる場合には之を適用せず。
    但し、母が子の出生前に復籍を為したるときは此の限りに在らず。



第735条

  1.  家族の子にして嫡出にあらざる者は戸主の同意あるにあらざれば其の家に入ることを得ず。

  2.  嫡出にあらざる子が父の家に入ることを得ざるときは母の家に入る。
    母の家に入ることを得ざるときは一家を創立す。



第736条

 女戸主が入夫婚姻を為したるときは入夫は其の家の戸主と為る。
但し、当事者が婚姻の当時反対の意思を表示したるときは此の限りに在らず。


第737条

  1.  戸主の親族にして他家に在る者は戸主の同意を得て其の家族と為ることを得。
    但し、其の者が他家の家族たるときは其の家の戸主の同意を得ることを要す。

  2.  前項に掲げたる者が未成年者なるときは親権を行う父若しくは母又は後見人の同意を得ることを要す。



第738条

  1.  婚姻又は養子縁組に因りて他家に入りたる者が其の配偶者又は養親の親族にあらざる自己の親族を婚家又は養家の家族と為さんと欲するときは前条の規定に依る外其の配偶者又は養親の同意を得ることを要す。

  2.  婚家又は養家を去りたる者が其の家に在る自己の直系卑属を自家の家族と為さんと欲するとき亦同じ。



第739条

 婚姻又は養子縁組に因りて他家に入りたる者は離婚又は離縁の場合に於いて実家に復籍す。


第740条

 前条の規定に依りて実家に復籍すべき者が実家の廃絶に因りて復籍を為すこと能はざるときは一家を創立す。
但し、実家を再興することを妨げず。


第741条

  1.  婚姻又は養子縁組に因りて他家に入りたる者が更に婚姻又は養子縁組に因りて他家に入らんと欲するときは婚家又は養家及び実家の戸主の同意を得ることを要す。

  2.  前項の場合に於いて同意を為さざりし戸主は婚姻又は養子縁組の日より1年内に復籍を拒むことを得。



第742条

 離籍せられたる家族は一家を創立す。
他家に入りたる後復籍を拒まれたる者が離婚又は離縁に因りて其の家を去りたるとき亦同じ。


第743条

  1.  家族は戸主の同意あるときは他家を相続し、分家を為し又は廃絶したる本家、分家、同家其の他親族の家を再興することを得。
    但し、未成年者は親権を行う父若しくは母又は後見人の同意を得ることを要す。

  2.  家族が分家を為す場合に於いては戸主の同意を得て自己の直系卑属を分家の家族と為すことを得。

  3.  前項の場合に於いて直系卑属が満15年以上なるときは其の同意を得ることを要す。



第744条

  1.  法定の推定家督相続人は他家に入り又は一家を創立することを得ず。
    但し、本家相続の必要あるときは此の限りに在らず。

  2.  前項の規定は第750条第2項の適用を妨げず。



第745条

 夫が他家に入り又は一家を創立したるときは妻は之に随いて其の家に入る。








  第2節 戸主及び家族の権利義務








第746条

 戸主及び家族は其の家の氏を称す。


第747条

 戸主は其の家族に対して扶養の義務を負う。


第748条

  1.  家族が自己の名に於いて得たる財産は其の特有財産とす。

  2.  戸主又は家族の孰れに属するか分明ならざる財産は戸主の財産と推定す。



第749条

  1.  家族は戸主の意に反して其の居所を定むることを得ず。

  2.  家族が前項の規定に違反して戸主の指定したる居所に在らざる間は戸主は之に対して扶養の義務を免る。

  3.  前項の場合に於いて戸主は相当の期間を定め其の指定したる場所に居所を転ずべき旨を催告することを得。
    若し家族が正当の理由なくして其の催告に応ぜざるときは戸主は裁判所の許可を得て之を離籍することを得。
    但し、其の家族が未成年者なるときは此の限りに在らず。



第750条

  1.  家族が婚姻又は養子縁組を為すには戸主の同意を得ることを要す。

  2.  家族が前項の規定に違反して婚姻又は養子縁組を為したるときは戸主は其の婚姻又は養子縁組の日より1年内に離籍を為し又は復籍を拒むことを得。

  3.  家族が養子を為したる場合に於いて前項の規定に従い離籍せられたるときは其の養子は養親に随いて其の家に入る。



第751条

 戸主が其の権利を行うこと能わざるときは親族会之を行う。
但し、戸主に対して親権を行う者又は後見人あるときは此の限りに在らず。








  第3節 戸主権の喪失








第752条

 戸主は左に掲げたる条件の具備するにあらざれば隠居を為すことを得ず。

  1.  満60年以上なること。

  2.  完全の能力を有する家督相続人が相続の単純承認を為すこと。



第753条

 戸主が疾病、本家の相続又は再興其の他已むことを得ざる事由に因りて爾後家政を執ること能わざるに至りたるときは前条の規定に拘わらず裁判所の許可を得て隠居を為すことを得。
但し、法定の推定家督相続人あらざるときは予め家督相続人たるべき者を定め其の承認を得ることを要す。


第754条

  1.  戸主が婚姻に因りて他家に入らんと欲するときは前条の規定に従い隠居を為すことを得。

  2.  戸主が隠居を為さずして婚姻に因り他家に入らんと欲する場合に於いて戸籍吏が其の届出を受理したるときは其の戸主は婚姻の日に於いて隠居を為したるものと看做す。



第755条

  1.  女戸主は年齢に拘わらず隠居を為すことを得。

  2.  有夫の女戸主が隠居を為すには其の夫の同意を得ることを要す。
    但し、夫は正当の理由あるにあらざれば其の同意を拒むことを得ず。



第756条

 無能力者が隠居を為すには其の法定代理人の同意を得ることを要せず。


第757条

 隠居は隠居者及び其の家督相続人より之を戸籍吏に届出つるに因りて其の効力を生ず。


第758条

  1.  隠居者の親族及び検事は隠居届出の日より3か月内に第752条又は第753条の規定に違反したる隠居の取消を裁判所に請求することを得。

  2.  女戸主が第755条第2項の規定に違反して隠居を為したるときは夫は前項の期間内に其の取消を裁判所に請求することを得。



第759条

  1.  隠居者又は家督相続人が詐欺又は強迫に因りて隠居の届出を為したるときは隠居者又は家督相続人は其の詐欺を発見し又は強迫を免れたる時より1年内に隠居の取消を裁判所に請求することを得。
    但し、追認を為したるときは此の限りに在らず。

  2.  隠居者又は家督相続人が詐欺を発見せず又は強迫を免れざる間は其の親族又は検事より隠居の取消を請求することを得。
    但し、其の請求の後隠居者又は家督相続人が追認を為したるときは取消権は之に因りて消滅す。

  3.  前2項の取消権は隠居届出の日より10年を経過したるときは時効に因りて消滅す。



第760条

  1.  隠居の取消前に家督相続人の債権者と為りたる者は其の取消に因りて戸主たる者に対して弁済の請求を為すことを得。
    但し、家督相続人に対する請求を妨げず。

  2.  債権者が債権取得の当時隠居取消の原因の存することを知りたるときは家督相続人に対してのみ弁済の請求を為すことを得。
    家督相続人が家督相続前より負担せる債務及び其の一身に専属する債務に付き亦同じ。



第761条

 隠居又は入夫婚姻に因る戸主権の喪失は前戸主又は家督相続人より前戸主の債権者及び債務者に其の通知を為すにあらざれば之を以て其の債権者及び債務者に対抗することを得ず。


第762条

  1.  新たに家を立てたる者は其の家を廃して他家に入ることを得。

  2.  家督相続に因りて戸主と為りたる者は其の家を廃することを得ず。
    但し、本家の相続又は再興其の他正当の事由に因り裁判所の許可を得たるときは此の限りに在らず。



第763条

 戸主か適法に廃家して他家に入りたるときは其の家族も亦其の家に入る。


第764条

  1.  戸主を失いたる家に家督相続人なきときは絶家したるものとし其の家族は各一家を創立す。
    但し、子は父に随い又父が知れざるとき、他家に在るとき若しくは死亡したるときは母に随いて其の家に入る。

  2.  前項の規定は第745条の適用を妨げず。









 第3章 婚姻








  第1節 婚姻の成立








   第1款 婚姻の要件








第765条

 男は満17年女は満15年に至らざれば婚姻を為すことを得ず。


第766条

 配偶者ある者は重ねて婚姻を為すことを得ず。


第767条

  1.  女は前婚の解消又は取消の日より6か月を経過したる後にあらざれば再婚を為すことを得ず。

  2.  女が前婚の解消又は取消の前より懐胎したる場合に於いては其の分娩の日より前項の規定を適用せず。



第768条

 姦通に因りて離婚又は刑の宣告を受けたる者は相姦者と婚姻を為すことを得ず。


第769条

 直系血族又は3親等内の傍系血族の間に於いては婚姻を為すことを得ず。
但し、養子と養方の傍系血族との間は此の限りに在らず。


第770条

 直系姻族の間に於いては婚姻を為すことを得ず。
第729条の規定に依り姻族関係が止みたる後亦同じ


第771条

 養子、其の配偶者、直系卑属又は其の配偶者と養親又は其の直系尊属との間に於いては第730条の規定に依り親族関係が止みたる後と雖も婚姻を為すことを得ず。


第772条

  1.  子が婚姻を為すには其の家に在る父母の同意を得ることを要す。
    但し、男が満30年女が満25年に達したる後は此の限りに在らず。

  2.  父母の一方が知れざるとき、死亡したるとき、家を去りたるとき又は其の意思を表示すること能わざるときは他の一方の同意のみを以て足る。

  3.  父母共に知れざるとき、死亡したるとき、家を去りたるとき又は其の意思を表示すること能わざるときは未成年者は其の後見人及び親族会の同意を得ることを要す。



第773条

 継父母又は嫡母が子の婚姻に同意せざるときは子は親族会の同意を得て婚姻を為すことを得。


第774条

 禁治産者が婚姻を為すには其の後見人の同意を得ることを要せず。


第775条

  1.  婚姻は之を戸籍吏に届出つるに因りて其の効力を生ず。

  2.  前項の届出は当事者双方及び成年の証人2人以上より口頭にて又は署名したる書面を以て之を為すことを要す。



第776条

 戸籍吏は婚姻が第741条第1項、第744条第1項、第750条第1項、第754条第1項、第765条ないし第773条及び前条第2項の規定其の他の法令に違反せざることを認めたる後にあらざれば其の届出を受理することを得ず。
但し、婚姻が第741条第1項又は第750条第1項の規定に違反する場合に於いて戸籍吏が注意を為したるに拘わらず当事者が其の届出を為さんと欲するときは此の限りに在らず。


第777条

 外国に在る日本人間に於いて婚姻を為さんと欲するときは其の国に駐在する日本の公使又は領事に其の届出を為すことを得。
此の場合に於いては前2条の規定を準用す。








   第2款 婚姻の無効及び取消








第778条

 婚姻は左の場合に限り無効とす。

  1.  人違其の他の事由に因り当事者間に婚姻を為す意思なきとき。

  2.  当事者が婚姻の届出を為さざるとき。
    但し、其の届出が第775条第2項に掲げたる条件を欠くに止まるときは婚姻は之が為めに其の効力を妨げらるることなし。



第779条

 婚姻は後7条の規定に依るにあらざれば之を取消すことを得ず。


第780条

  1.  第765条ないし第771条の規定に違反したる婚姻は各当事者、其の戸主、親族又は検事より其の取消を裁判所に請求することを得。
    但し、検事は当事者の一方か死亡したる後は之を請求することを得ず。

  2.  第766条ないし第768条の規定に違反したる婚姻に付ては当事者の配偶者又は前配偶者も亦其の取消を請求することを得。



第781条

  1.  第765条の規定に違反したる婚姻は不適齢者が適齢に達したるときは其の取消を請求することを得ず。

  2.  不適齢者は適齢に達したる後尚ほ3か月間其の婚姻の取消を請求することを得。
    但し、適齢に達したる後追認を為したるときは此の限りに在らず。



第782条

 第767条の規定に違反したる婚姻は前婚の解消若しくは取消の日より6か月を経過し又は女が再婚後懐胎したるときは其の取消を請求することを得ず。


第783条

 第772条の規定に違反したる婚姻は同意を為す権利を有せし者より其の取消を裁判所に請求することを得。
同意が詐欺又は強迫に因りたるとき亦同じ


第784条

 前条の取消権は左の場合に於いて消滅す。

  1.  同意を為す権利を有せし者が婚姻ありたることを知りたる後又は詐欺を発見し若しくは強迫を免れたる後6か月を経過したるとき。

  2.  同意を為す権利を有せし者が追認を為したるとき。

  3.  婚姻届出の日より2年を経過したるとき。



第785条

  1.  詐欺又は強迫に因りて婚姻したる者は其の婚姻の取消を裁判所に請求することを得。

  2.  前項の取消権は当事者が詐欺を発見し若しくは強迫を免れたる後3か月を経過し又は追認を為したるときは消滅す。



第786条

  1.  壻養子縁組の場合に於いては各当事者は縁組の無効又は取消を理由として婚姻の取消を裁判所に請求することを得。
    但し、縁組の無効又は取消の請求に付帯して婚姻の取消を請求することを妨げず。

  2.  前項の取消権は当事者が縁組の無効なること又は其の取消ありたることを知りたる後3か月を経過し又は其の取消権を放棄したるときは消滅す。



第787条

  1.  婚姻の取消は其の効力を既往に及ぼさず。

  2.  婚姻の当時其の取消の原因の存することを知らざりし当事者が婚姻に因りて財産を得たるときは現に利益を受くる限度に於いて其の返還を為すことを要す。

  3.  婚姻の当時其の取消の原因の存することを知りたる当事者は婚姻に因りて得たる利益の全部を返還することを要す。
    尚ほ相手方が善意なりしときは之に対して損害賠償の責に任ず。









  第2節 婚姻の効力








第788条

  1.  妻は婚姻に因りて夫の家に入る。

  2.  入夫及び壻養子は妻の家に入る。



第789条

  1.  妻は夫と同居する義務を負う。

  2.  夫は妻をして同居を為さしむることを要す。



第790条

 夫婦は互に扶養を為す義務を負う。


第791条

 妻が未成年者なるときは成年の夫は其の後見人の職務を行う。


第792条

 夫婦間に於いて契約を為したるときは其の契約は婚姻中何時にても夫婦の一方より之を取消すことを得。
但し、第三者の権利を害することを得ず。








  第3節 夫婦財産制








    第1款 総則








第793条

 夫婦が婚姻の届出前に其の財産に付き別段の契約を為さざりしときは其の財産関係は次款に定むる所に依る。


第794条

 夫婦が法定財産制に異なりたる契約を為したるときは婚姻の届出までに其の登記を為すにあらざれば之を以て夫婦の承継人及び第三者に対抗することを得ず。


第795条

 外国人が夫の本国の法定財産制に異なりたる契約を為したる場合に於いて婚姻の後日本の国籍を取得し又は日本に住所を定めたるときは1年内に其の契約を登記するにあらざれば日本に於いては之を以て夫婦の承継人及び第三者に対抗することを得ず。


第796条

  1.  夫婦の財産関係は婚姻届出の後は之を変更することを得ず。

  2.  夫婦の一方が他の一方の財産を管理する場合に於いて管理の失当に因り其の財産を危くしたるときは他の一方は自ら其の管理を為さんことを裁判所に請求することを得

  3.  共有財産に付ては前項の請求と共に其の分割を請求することを得。



第797条

 前条の規定又は契約の結果に依り管理者を変更し又は共有財産の分割を為したるときは其の登記を為すにあらざれば之を以て夫婦の承継人及び第三者に対抗することを得ず。








    第2款 法定財産制








第798条

  1.  夫は婚姻より生ずる一切の費用を負担す。
    但し、妻が戸主たるときは妻之を負担す。

  2.  前項の規定は第790条及び第8章の規定の適用を妨げず。



第799条

  1.  夫又は女戸主は用方に従い其の配偶者の財産の使用及び収益を為す権利を有す。

  2.  夫又は女戸主は其の配偶者の財産の果実中より其の債務の利息を払うことを要す。



第800条

 第595条及び第598条の規定は前条の場合に之を準用す。


第801条

夫は妻の財産を管理す
夫が妻の財産を管理すること能わざるときは妻自ら之を管理す


第802条

 夫が妻の為めに借財を為し、妻の財産を譲渡し、之を担保に供し又は第602条の期間を超えて其の賃貸を為すには妻の承諾を得ることを要す。
但し、管理の目的を以て果実を処分するは此の限りに在らず。


第803条

 夫が妻の財産を管理する場合に於いて必要ありと認むるときは裁判所は妻の請求に因り夫をして其の財産の管理及び返還に付き相当の担保を供せしむることを得。


第804条

  1.  日常の家事に付ては妻は夫の代理人と看做す。

  2.  夫は前項の代理権の全部又は一部を否認することを得。
    但し、之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。



第805条

 夫が妻の財産を管理し又は妻が夫の代理を為す場合に於いては自己の為めにすると同一の注意を為すことを要す。


第806条

 第654条及び第655条の規定は夫が妻の財産を管理し又は妻が夫の代理を為す場合に之を準用す。


第807条

  1.  妻又は入夫が婚姻前より有せる財産及び婚姻中自己の名に於いて得たる財産は其の特有財産とす。

  2.  夫婦の孰れに属するか分明ならざる財産は夫又は女戸主の財産と推定す。









  第4節 離婚








    第1款 協議上の離婚








第808条

 夫婦は其の協議を以て離婚を為すことを得。


第809条

 満25年に達せざる者が協議上の離婚を為すには第772条及び第773条の規定に依り其の婚姻に付き同意を為す権利を有する者の同意を得ることを要す。


第810条

 第774条及び第775条の規定は協議上の離婚に之を準用す。


第811条

  1.  戸籍吏は離婚が第775条第2項及び第89条の規定其の他の法令に違反せざることを認めたる後にあらざれば其の届出を受理することを得ず。

  2.  戸籍吏が前項の規定に違反して届出を受理したるときと雖も離婚は之が為めに其の効力を妨げらるることなし。



第812条

  1.  協議上の離婚を為したる者が其の協議を以て子の監護を為すべき者を定めざりしときは其の監護は父に属す。

  2.  父が離婚に因りて婚家を去りたる場合に於いては子の監護は母に属す。

  3.  前2項の規定は監護の範囲外に於いて父母の権利義務に変更を生ずることなし。









    第2款 裁判上の離婚








第813条

 夫婦の一方は左の場合に限り離婚の訴を提起することを得。

  1.  配偶者か重婚を為したるとき。

  2.  妻が姦通を為したるとき。

  3.  夫が姦通罪に因りて刑に処せられたるとき。

  4.  配偶者が偽造、賄賂、猥褻、窃盗、強盗、詐欺取財、受寄財物費消、贓物に関する罪若しくは刑法第175条第260条に掲げたる罪に因りて軽罪以上の刑に処せられ又は其の他の罪に因りて重禁錮3年以上の刑に処せられたるとき。

  5.  配偶者より同居に堪へざる虐待又は重大なる侮辱を受けたるとき。

  6.  配偶者より悪意を以て遺棄せられたるとき。

  7.  配偶者の直系尊属より虐待又は重大なる侮辱を受けたるとき。

  8.  配偶者が自己の直系尊属に対して虐待を為し又は之に重大なる侮辱を加えたるとき。

  9.  配偶者の生死が3年以上分明ならざるとき。

  10.  壻養子縁組の場合に於いて離縁ありたるとき又は養子が家女と婚姻を為したる場合に於いて離縁若しくは縁組の取消ありたるとき。



第814条

  1.  前条第1号ないし第4号の場合に於いて夫婦の一方が他の一方の行為に同意したるときは離婚の訴を提起することを得ず。

  2.  前条第1号ないし第7号の場合に於いて夫婦の一方が他の一方又は其の直系尊属の行為を宥恕したるとき亦同じ。



第815条

 第813条第4号に掲げたる処刑の宣告を受けたる者は其の配偶者に同一の事由あることを理由として離婚の訴を提起することを得ず。


第816条

第813条第1号ないし第8号の事由に因る離婚の訴は之を提起する権利を有する者が離婚の原因たる事実を知りたる時より1年を経過したる後は之を提起することを得ず。
其の事実発生の時より10年を経過したる後亦同じ。


第817条

 第813条第9号の事由に因る離婚の訴は配偶者の生死が分明と為りたる後は之を提起することを得ず。


第818条

  1.  第813条第10号の場合に於いて離縁又は縁組取消の請求ありたるときは之に付帯して離婚の請求を為すことを得。

  2.  第813条第10号の事由に因る離婚の訴は当事者が離縁又は縁組の取消ありたることを知りたる後3か月を経過し又は離婚請求の権利を放棄したるときは之を提起することを得ず。



第819条

 第812条の規定は裁判上の離婚に之を準用す。
但し、裁判所は子の利益の為め其の監護に付き之に異なりたる処分を命ずることを得。








  第4章 親子








  第1節 実子








    第1款 嫡出子








第820条

  1.  妻が婚姻中に懐胎したる子は夫の子と推定す。

  2.  婚姻成立の日より200日後又は婚姻の解消若しくは取消の日より300日内に生れたる子は婚姻中に懐胎したるものと推定す。



第821条

 第767条第1項の規定に違反して再婚を為したる女が分娩したる場合に於いて前条の規定に依り其の子の父を定むること能わざるときは裁判所之を定む。


第822条

 第820条の場合に於いて夫は子の嫡出なることを否認することを得。


第823条

 前条の否認権は子又は其の法定代理人に対する訴に依りて之を行う。
但し、夫が子の法定代理人なるときは裁判所は特別代理人を選任することを要す。


第824条

 夫が子の出生後に於いて其の嫡出なることを承認したるときは其の否認権を失う。


第825条

 否認の訴は夫が子の出生を知りたる時より1年内に之を提起することを要す。


第826条

  1.  夫が未成年者なるときは前条の期間は其の成年に達したる時より之を起算す。
    但夫が成年に達したる後に子の出生を知りたるときは此の限りに在らず。

  2.  夫が禁治産者なるときは前条の期間は禁治産の取消ありたる後夫が子の出生を知りたる時より之を起算す。









    第2款 嫡出にあらざる子








第827条

  1.  嫡出にあらざる子は其の父または母に於いて之を認知することを得。

  2.  父が認知したる子は之を庶子とす。



第828条

 認知を為すには父または母が無能力者なるときと雖も其の法定代理人の同意を得ることを要せず。


第829条

  1.  認知は戸籍吏に届出つるに依りて之を為す。

  2.  認知は遺言に依りても亦之を為すことを得。



第830条

 成年の子は其の承諾あるにあらざれば之を認知することを得ず。


第831条

  1.  父は胎内に在る子と雖も之を認知することを得。
    此の場合に於いては母の承諾を得ることを要す。

  2.  父または母は死亡したる子と雖も其の直系卑属あるときに限り之を認知することを得。
    此の場合に於いて其の直系卑属が成年者なるときは其の承諾を得ることを要す。



第832条

 認知は出生の時に遡りて其の効力を生ず。
但し、第三者が既に取得したる権利を害することを得ず。


第833条

 認知を為したる父または母は其の認知を取消すことを得ず。


第834条

 子其の他の利害関係人は認知に対して反対の事実を主張することを得。


第835条

 子、其の直系卑属又は此れ等の者の法定代理人は父または母に対して認知を求むることを得。


第836条

  1.  庶子は其の父母の婚姻に因りて嫡出子たる身分を取得す。

  2.  婚姻中父母が認知したる子は其の認知の時より嫡出子たる身分を取得す。

  3.  前2項の規定は子が既に死亡したる場合に之を準用す。









  第2節 養子








    第1款 縁組の要件








第837条

 成年に達したる者は養子を為すことを得。


第838条

 尊属又は年長者は之を養子と為すことを得ず。


第839条

 法定の推定家督相続人たる男子ある者は男子を養子と為すことを得ず。
但し、女壻と為す為めにする場合は此の限りに在らず。


第840条

  1.  後見人は被後見人を養子と為すことを得ず。
    其の任務が終了したる後未た管理の計算を終わらざる間亦同じ。

  2.  前項の規定は第848条の場合にはこれを適用せず。



第841条

  1.  配偶者ある者は其の配偶者と共にするにあらざれば縁組を為すことを得ず。

  2.  夫婦の一方が他の一方の子を養子と為すには他の一方の同意を得るを以て足る。



第842条

 前条第1項の場合に於いて夫婦の一方が其の意思を表示すること能わざるときは他の一方は双方の名義を以て縁組を為すことを得。


第843条

  1.  養子と為るべき者が15年未満なるときは其の家に在る父母之に代わりて縁組の承諾を為すことを得。

  2.  継父母又は嫡母が前項の承諾を為すには親族会の同意を得ることを要す。



第844条

 成年の子が養子を為し又は満15年以上の子が養子と為るには其の家に在る父母の同意を得ることを要す。


第845条

 縁組又は婚姻に因りて他家に入りたる者が更に養子として他家に入らんと欲するときは実家に在る父母の同意を得ることを要す。
但し、妻が夫に随いて他家に入るは此の限りに在らず。


第846条

  1.  第772条第2項及び第3項の規定は前3条の場合に之を準用す。

  2.  第773条の規定は前2条の場合に之を準用す。



第847条

 第774条及び第775条の規定は縁組に之を準用す。


第848条

  1.  養子を為さんと欲する者は遺言を以て其の意思を表示することを得。
    此の場合に於いては遺言執行者、養子と為るべき者又は第843条の規定に依り之に代わりて承諾を為したる者及び成年の証人2人以上より遺言が効力を生じたる後遅滞なく縁組の届出を為すことを要す。

  2.  前項の届出は養親の死亡の時に遡りて其の効力を生ず。



第849条

  1.  戸籍吏は縁組か第741条第1項、第744条第1項、第750条第1項及び前12条の規定其の他の法令に違反せざることを認めたる後にあらざれば其の届出を受理することを得ず。

  2. 第776条但書の規定は前項の場合に之を準用す。



第850条

 外国に在る日本人間に於いて縁組を為さんと欲するときは其の国に駐在する日本の公使又は領事に其の届出を為すことを得。
此の場合に於いては第775条及び前2条の規定を準用す。








    第2款 縁組の無効及び取消








第851条

 縁組は左の場合に限り無効とす。

  1.  人違其の他の事由に因り当事者間に縁組を為す意思なきとき。

  2.  当事者が縁組の届出を為さざるとき。
    但し、其の届出か第775条第2項及び第848条第1項に掲げたる条件を欠くに止まるときは縁組は之が為めに其の効力を妨げらるることなし。



第852条

 縁組は後7条の規定に依るにあらざれば之を取消すことを得ず。


第853条

 第837条の規定に違反したる縁組は養親又は其の法定代理人より其の取消を裁判所に請求することを得。
但し、養親が成年に達したる後6か月を経過し又は追認を為したるときは此の限りに在らず。


第854条

 第838条又は第839条の規定に違反したる縁組は各当事者、其の戸主又は親族より其の取消を裁判所に請求することを得。


第855条

  1.  第840条の規定に違反したる縁組は養子又は其の実方の親族より其の取消を裁判所に請求することを得。
    但し、管理の計算が終わりたる後養子が追認を為し又は6か月を経過したるときは此の限りに在らず。

  2.  追認は養子が成年に達し又は能力を回復したる後之を為すにあらざれば其の効なし。

  3.  養子が成年に達せず又は能力を回復せざる間に管理の計算が終わりたる場合に於いては第1項但書の期間は養子が成年に達し又は能力を回復したる時より之を起算す。



第856条

 第841条の規定に違反したる縁組は同意を為さざりし配偶者より其の取消を裁判所に請求することを得。
但し、其の配偶者が縁組ありたることを知りたる後6か月を経過したるときは追認を為したるものと看做す。


第857条

  1.  第844条ないし第846条の規定に違反したる縁組は同意を為す権利を有せし者より其の取消を裁判所に請求することを得。
    同意が詐欺又は強迫に因りたるとき亦同じ。

  2.  第784条の規定は前項の場合に之を準用す。



第858条

  1.  壻養子縁組の場合に於いては各当事者は婚姻の無効又は取消を理由として縁組の取消を裁判所に請求することを得。
    但し、婚姻の無効又は取消の請求に付帯して縁組の取消を請求することを妨げず。

  2.  前項の取消権は当事者が婚姻の無効なること又は其の取消ありたることを知りたる後6か月を経過し又は其の取消権を放棄したるときは消滅す。



第859条

 第785条及び第787条の規定は縁組に之を準用す。
但し、第785条第2項の期間は之を6か月とす。








    第3款 縁組の効力








第860条

 養子は縁組の日より養親の嫡出子たる身分を取得す。


第861条

 養子は縁組に因りて養親の家に入る。








    第4款 離縁








第862条

  1.  縁組の当事者は其の協議を以て離縁を為すことを得。

  2.  養子が15年未満なるときは其の離縁は養親と養子に代わりて縁組の承諾を為す権利を有する者との協議を以て之を為す。

  3.  養親が死亡したる後養子が離縁を為さんと欲するときは戸主の同意を得て之を為すことを得。



第863条

  1.  満25年に達せざる者が協議上の離縁を為すには第844条の規定に依り其の縁組に付き同意を為す権利を有する者の同意を得ることを要す。

  2.  第772条第2項、第3項及び第773条の規定は前項の場合に之を準用す。



第864条

 第774条及び第775条の規定は協議上の離縁に之を準用す。


第865条

  1.  戸籍吏は離縁が第775条第2項、第862条及び第863条の規定其の他の法令に違反せざることを認めたる後にあらざれば其の届出を受理することを得ず。

  2.  戸籍吏が前項の規定に違反して届出を受理したるときと雖も離縁は之が為めに其の効力を妨げらるることなし。



第866条

 縁組の当事者の一方は左の場合に限り離縁の訴を提起することを得。

  1.  他の一方より虐待又は重大なる侮辱を受けたるとき。

  2.  他の一方より悪意を以て遺棄せられたるとき。

  3.  養親の直系尊属より虐待又は重大なる侮辱を受けたるとき。

  4.  他の一方が重禁錮1年以上の刑に処せられたるとき。

  5.  養子に家名を涜し又は家産を傾くべき重大なる過失ありたるとき。

  6.  養子が逃亡して3年以上復帰せざるとき。

  7.  養子の生死が3年以上分明ならざるとき。

  8.  他の一方が自己の直系尊属に対して虐待を為し又は之に重大なる侮辱を加えたるとき。

  9.  壻養子縁組の場合に於いて離婚ありたるとき又は養子が家女と婚姻を為したる場合に於いて離婚若しくは婚姻の取消ありたるとき。



第867条

  1.  養子が満15年に達せざる間は其の縁組に付き承諾権を有する者より離縁の訴を提起することを得。

  2.  第843条第2項の規定は前項の場合に之を準用す。



第868条

 第866条第1号ないし第6号の場合に於いて当事者の一方が他の一方又は其の直系尊属の行為を宥恕したるときは離縁の訴を提起することを得ず。


第869条

  1.  第866条第4号の場合に於いて当事者の一方が他の一方の行為に同意したるときは離縁の訴を提起することを得ず。

  2.  第866条第4号に掲げたる刑に処せられたる者は他の一方に同一の事由あることを理由として離縁の訴を提起することを得ず。



第870条

 第866条第1号ないし第5号及び第8号の事由に因る離縁の訴は之を提起する権利を有する者が離縁の原因たる事実を知りたる時より1年を経過したる後は之を提起することを得ず。
其の事実発生の時より10年を経過したる後亦同じ。


第871条

 第866条第6号の事由に因る離縁の訴は養親か養子の復帰したることを知りたる時より1年を経過したる後は之を提起することを得ず。
其の復帰の時より10年を経過したる後亦同じ。


第872条

 第866条第7号の事由に因る離縁の訴は養子の生死が分明と為りたる後は之を提起することを得ず。


第873条

  1.  第866条第9号の場合に於いて離婚又は婚姻取消の請求ありたるときは之に付帯して離縁の訴を為すことを得。

  2.  第866条第9号の事由に因る離縁の訴は当事者が離婚又は婚姻の取消ありたることを知りたる後6か月を経過し又は離縁請求の権利を放棄したるときは之を提起することを得ず。



第874条

 養子が戸主と為りたる後は離縁を為すことを得ず。
但し、隠居を為したる後は此の限りに在らず。


第875条

 養子は離縁に因り其の実家に於いて有せし身分を回復す。
但し、第三者が既に取得したる権利を害することを得ず。


第876条

 夫婦が養子と為り又は養子が養親の他の養子と婚姻を為したる場合に於いて妻が離縁に因りて養家を去るべきときは夫は其の選択に従い離縁又は離婚を為すことを要す。








 第5章 親権








  第1節 総則








第877条

  1.  子は其の家に在る父の親権に服す。
    但し、独立の生計を立つる成年者は此の限りに在らず。

  2.  父が知れざるとき、死亡したるとき、家を去りたるとき又は親権を行うこと能わざるときは家に在る母之を行う。



第878条

 継父、継母又は嫡母が親権を行う場合に於いては次章の規定を準用す。








第2節 親権の効力








第879条

 親権を行う父または母は未成年の子の監護及び教育を為す権利を有し義務を負う。


第880条

 未成年の子は親権を行う父または母が指定したる場所に其の居所を定むることを要す。
但し、第749条の適用を妨げず。


第881条

 未成年の子か兵役を出願するには親権を行う父または母の許可を得ることを要す。


第882条

  1.  親権を行う父または母は必要なる範囲内に於いて自ら其の子を懲戒し又は裁判所の許可を得て之を懲戒場に入るることを得。

  2.  子を懲戒場に入るる期間は6か月以下の範囲内に於いて裁判所之を定む。
    但し、此期間は父または母の請求に因り何時にても之を短縮することを得。



第883条

  1.  未成年の子は親権を行う父または母の許可を得るにあらざれば職業を営むことを得ず。

  2.  父または母は第6条第2項の場合に於いては前項の許可を取消し又は之を制限することを得。



第884条

 親権を行う父または母は未成年の子の財産を管理し又其の財産に関する法律行為に付き其の子を代表す。
但し、其の子の行為を目的とする債務を生ずべき場合に於いては本人の同意を得ることを要す。


第885条

 未成年の子が其の配偶者の財産を管理すべき場合に於いては親権を行う父または母之に代わりて其の財産を管理す。


第886条

 親権を行う母が未成年の子に代わりて左に掲げたる行為を為し又は子の之を為すことに同意するには親族会の同意を得ることを要す。

  1.  営業を為すこと。

  2.  借財又は保証を為すこと。

  3.  不動産又は重要なる動産に関する権利の喪失を目的とする行為を為すこと。

  4.  不動産又は重要なる動産に関する和解又は仲裁契約を為すこと。

  5.  相続を放棄すること。

  6.  贈与又は遺贈を拒絶すること。



第887条

  1.  親権を行う母が前条の規定に違反して為し又は同意を与へたる行為は子又は法定代理人に於いて之を取消すことを得。
    此の場合に於いては第19条の規定を準用す。

  2.  前項の規定は第121条ないし第126条の適用を妨げず。



第888条

  1.  親権を行う父または母と其の未成年の子と利益相反する行為に付ては父または母は其の子の為めに特別代理人を選任することを親族会に請求することを要す。

  2.  父または母か数人の子に対して親権を行う場合に於いて其の一人と他の子との利益相反する行為に付ては其の一方の為め前項の規定を準用す。



第889条

  1.  親権を行う父または母は自己の為めにすると同一の注意を以て其の管理権を行うことを要す。

  2.  母は親族会の同意を得て為したる行為に付ても其の責を免るることを得ず。
    但し、母に過失なかりしときは此の限りに在らず。



第890条

 子が成年に達したるときは親権を行いたる父または母は遅滞なく其の管理の計算を為すことを要す。
但し、其の子の養育及び財産の管理の費用は其の子の財産の収益と之を相殺したるものと看做す。


第891条

 前条但書の規定は無償にて子に財産を与うる第三者が反対の意思を表示したるときは其の財産に付ては之を適用せず。


第892条

  1.  無償にて子に財産を与うる第三者が親権を行う父または母をして之を管理せしめざる意思を表示したるときは其の財産は父または母の管理に属せざるものとす。

  2.  前項の場合に於いて第三者が管理者を指定せざりしときは裁判所は子、其の親族又は検事の請求に因り其の管理者を選任す。

  3.  第三者が管理者を指定せしときと雖も其の管理者の権限が消滅し又は之を改任する必要ある場合に於いて第三者が更に管理者を指定せざるとき亦同じ。

  4.  第27条ないし第29条の規定は前2項の場合に之を準用す。



第893条

 第654条及び第655条の規定は父または母が子の財産を管理する場合及び前条の場合に之を準用す。


第894条

  1.  親権を行いたる父若しくは母又は親族会員と其の子との間に財産の管理に付て生じたる債権は其の管理権消滅の時より5年間之を行わざるときは時効に因りて消滅す。

  2.  子が未だ成年に達せざる間に管理権が消滅したるときは前項の期間は其の子が成年に達し又は後任の法定代理人が就職したる時より之を起算す。



第895条

 親権を行う父または母は其の未成年の子に代わりて戸主権及び親権を行う。








  第3節 親権の喪失








第896条

 父または母が親権を濫用し又は著しく不行跡なるときは裁判所は子の親族又は検事の請求に因り其の親権の喪失を宣告することを得。


第897条

  1.  親権を行う父または母が管理の失当に因りて其の子の財産を危くしたるときは裁判所は子の親族又は検事の請求に因り其の管理権の喪失を宣告することを得。

  2.  父が前項の宣告を受けたるときは管理権は家に在る母之を行う。



第898条

 前2条に定めたる原因が止みたるときは裁判所は本人又は其の親族の請求に因り失権の宣告を取消すことを得。


第899条

 親権を行う母は財産の管理を辞することを得。








 第6章 後見








  第1節 後見の開始








第900条

 後見は左の場合に於いて開始す。

  1.  未成年者に対して親権を行う者なきとき又は親権を行う者が管理権を有せざるとき。

  2.  禁治産の宣告ありたるとき。









  第2節 後見の機関








    第1款 後見人








第901条

  1.  未成年者に対して最後に親権を行う者は遺言を以て後見人を指定することを得。
    但し、管理権を有せざる者は此の限りに在らず。

  2.  親権を行う父の生前に於いて母が予め財産の管理を辞したるときは父は前項の規定に依りて後見人の指定を為すことを得。



第902条

  1.  親権を行う父または母は禁治産者の後見人と為る。

  2.  妻が禁治産の宣告を受けたるときは夫其の後見人と為る。
    夫が後見人たらざるときは前項の規定に依る。

  3.  夫が禁治産の宣告を受けたるときは妻其の後見人と為る。
    妻が後見人たらざるとき又は夫が未成年者なるときは第1項の規定に依る。



第903条

 前2条の規定に依りて家族の後見人たる者あらざるときは戸主其の後見人と為る。


第904条

 前3条の規定に依りて後見人たる者あらざるときは後見人は親族会之を選任す。


第905条

 母が財産の管理を辞し、後見人が其の任務を辞し、親権を行いたる父若しくは母が家を去り又は戸主か隠居を為したるに因り後見人を選任する必要を生じたるときは其の父、母又は後見人は遅滞なく親族会を招集し又は其の招集を裁判所に請求することを要す。


第906条

 後見人は1人たることを要す。


第907条

 後見人は婦女を除く外左の事由あるにあらざれば其の任務を辞することを得ず。

  1.  軍人として現役に服すること。

  2.  被後見人の住所の市又は郡以外に於いて公務に従事すること。

  3.  自己より先に後見人たるべき者に付き本条又は次条に掲げたる事由の存せし場合に於いて其の事由が消滅したること。

  4.  禁治産者に付ては10年以上後見を為したること。
    但し、配偶者、直系血族及び戸主は此の限りに在らず。

  5.  此の他正当の事由。



第908条

 左に掲げたる者は後見人たることを得ず。

  1.  未成年者。

  2.  禁治産者及び準禁治産者。

  3.  剥奪公権者及び停止公権者。

  4.  裁判所に於いて免黜せられたる法定代理人又は保佐人。

  5.  破産者。

  6.  被後見人に対して訴訟を為し又は為したる者及び其の配偶者並に直系血族。

  7.  行方の知れざる者。

  8.  裁判所に於いて後見の任務に堪へざる事跡、不正の行為又は著しき不行跡ありと認めたる者。



第909条

  1.  前7条の規定は保佐人に之を準用す。

  2.  保佐人又は其の代表する者と準禁治産者との利益相反する行為に付ては保佐人は臨時保佐人の選任を親族会に請求することを要す。









第2款 後見監督人








第910条

 後見人を指定することを得る者は遺言を以て後見監督人を指定することを得。


第911条

  1.  前条の規定に依りて指定したる後見監督人なきときは法定後見人又は指定後見人は其の事務に着手する前親族会の招集を裁判所に請求し後見監督人を選任せしむることを要す。
    若し之に違反したるときは親族会は其の後見人を免黜することを得。

  2.  親族会に於いて後見人を選任したるときは直ちに後見監督人を選任することを要す。



第912条

 後見人就職の後後見監督人の欠けたるときは後見人は遅滞なく親族会を招集し後見監督人を選任せしむることを要す。
此の場合に於いては前条第1項の規定を準用す。


第913条

  1.  後見人の更迭ありたるときは親族会は後見監督人を改選することを要す。
    但し、前後見監督人を再選することを妨げず。

  2.  新後見人が親族会に於いて選任したる者にあらざるときは後見監督人は遅滞なく親族会を招集し前項の規定に依りて改選を為さしむることを要す。
    若し之に違反したるときは後見人の行為に付き之と連帯して其の責に任ず。



第914条

 後見人の配偶者、直系血族又は兄弟姉妹は後見監督人たることを得ず。


第915条

 後見監督人の職務左の如し。

  1.  後見人の事務を監督すること。

  2.  後見人の欠けたる場合に於いて遅滞なく其の後任者の任務に就くことを促し若し後任者なきときは親族会を招集して其の選任を為さしむること。

  3.  急迫の事情ある場合に於いて必要なる処分を為すこと。

  4.  後見人又は其の代表する者と被後見人との利益相反する行為に付き被後見人を代表すること。



第916条

 第644条、第907条及び第908条の規定は後見監督人に之を準用す。








  第3節 後見の事務








第917条

  1.  後見人は遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し1か月内に其の調査を終わり且其の目録を調製することを要す。
    但し、此期間は親族会に於いて之を伸長することを得。

  2.  財産の調査及び其の目録の調製は後見監督人の立会を以て之を為すにあらざれば其の効なし。

  3.  後見人が前2項の規定に従い財産の目録を調製せざるときは親族会は之を免黜することを得。



第918条

後見人は目録の調製を終わるまでは急迫の必要ある行為のみを為す権限を有す。
但し、之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。


第919条

  1.  後見人が被後見人に対し債権を有し又は債務を負うときは財産の調査に着手する前に之を後見監督人に申出つることを要す。

  2.  後見人が被後見人に対し債権を有することを知りて之を申出でざるときは其の債権を失う。

  3.  後見人が被後見人に対し債務を負うことを知りて之を申出でざるときは親族会は其の後見人を免黜することを得。



第920条

 前3条の規定は後見人就職の後被後見人が包括財産を取得したる場合に之を準用す。


第921条

 未成年者の後見人は第879条ないし第883条及び第885条に定めたる事項に付き親権を行う父または母と同一の権利義務を有す。
但し、親権を行う父または母が定めたる教育の方法及び居所を変更し、未成年者を懲戒場に入れ、営業を許可し、其の許可を取消し又は之を制限するには親族会の同意を得ることを要す。


第922条

  1.  禁治産者の後見人は禁治産者の資力に応じて其の療養看護を力むることを要す。

  2.  禁治産者を瘋癩病院に入れ又は私宅に監置すると否とは親族会の同意を得て後見人之を定む。



第923条

  1.  後見人は被後見人の財産を管理し又其の財産に関する法律行為に付き被後見人を代表す。

  2.  第884条但書の規定は前項の場合に之を準用す。



第924条

  1.  後見人は其の就職の初に於いて親族会の同意を得て被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理の為め毎年費すべき金額を予定することを要す。

  2.  前項の予定額は親族会の同意を得るにあらざれば之を変更することを得ず。。
    但し、已むことを得ざる場合に於いて予定額を超ゆる金額を支出することを妨げず。



第925条

 親族会は後見人及び被後見人の資力其の他の事情に依り被後見人の財産中より相当の報酬を後見人に与うることを得。
但し、後見人が被後見人の配偶者、直系血族又は戸主なるときは此の限りに在らず。


第926条

 後見人は親族会の同意を得て有給の財産管理者を使用することを得。
但し、第106条の規定の適用を妨げず。


第927条

  1.  親族会は後見人就職の初に於いて後見人が被後見人の為めに受取りたる金銭が何程の額に達せば之を寄託すべきかを定むることを要す。

  2.  後見人が被後見人の為めに受取りたる金銭が親族会の定めたる額に達するも相当の期間内に之を寄託せざるときは其の法定利息を払うことを要す。

  3.  金銭を寄託すべき場所は親族会の同意を得て後見人之を定む。



第928条

 指定後見人及び選定後見人は毎年少くとも1回被後見人の財産の状況を親族会に報告することを要す。


第929条

 後見人が被後見人に代わりて営業若しくは第12条第1項に掲げたる行為を為し又は未成年者の之を為すことに同意するには親族会の同意を得ることを要す。
但し、元本の領収に付ては此の限りに在らず。


第930条

  1.  後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲受けたるときは被後見人は之を取消すことを得。
    此の場合に於いては第19条の規定を準用す。

  2.  前項の規定は第121条ないし第126条の適用を妨げず。



第931条

 後見人は親族会の同意を得るにあらざれば被後見人の財産を貸借することを得ず。


第932条

 後見人が其の任務を曠くするときは親族会は臨時管理人を選任し後見人の責任を以て被後見人の財産を管理せしむることを得。


第933条

 親族会は後見人をして被後見人の財産の管理及び返還に付き相当の担保を供せしむることを得。


第934条

  1.  被後見人が戸主なるときは後見人は之に代わりて其の権利を行う。
    但し、家族を離籍し、其の復籍を拒み又は家族が分家を為し若しくは廃絶家を再興することに同意するには親族会の同意を得ることを要す。

  2.  後見人は未成年者に代わりて親権を行う。
    但し、第917条ないし第921条及び前10条の規定を準用す。



第935条

 親権を行う者が管理権を有せざる場合に於いては後見人は財産に関する権限のみを有す。


第936条

 第644条、第887条、第889条第2項及び第892条の規定は後見に之を準用す。








第4節 後見の終了








第937条

 後見人の任務が終了したるときは後見人又は其の相続人は2か月内に其の管理の計算を為すことを要す。
但し、此期間は親族会に於いて之を伸長することを得。


第938条

  1.  後見の計算は後見監督人の立会を以て之を為す。

  2.  後見人の更迭ありたる場合に於いては後見の計算は親族会の認可を得ることを要す。



第939条

  1.  未成年者が成年に達したる後後見の計算の終了前に其の者と後見人又は其の相続人との間に為したる契約は其の者に於いて之を取消すことを得。
    其の者が後見人又は其の相続人に対して為したる単独行為亦同じ。

  2.  第19条及び第121条ないし第126条の規定は前項の場合に之を準用す。



第940条

  1.  後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には後見の計算終了の時より利息を付することを要す。

  2.  後見人が自己の為めに被後見人の金銭を消費したるときは其の消費の時より之に利息を付することを要す。
    尚ほ損害ありたるときは其の賠償の責に任ず。



第941条

 第654条及び第655条の規定は後見に之を準用す。


第942条

  1.  第894条に定めたる時効は後見人、後見監督人又は親族会員と被後見人との間に於いて後見に関して生じたる債権に之を準用す。

  2.  前項の時効は第939条の規定に依りて法律行為を取消したる場合に於いては其の取消の時より之を起算す。



第943条

 前条第1項の規定は保佐人又は親族会員と準禁治産者との間に之を準用す。








  第7章 親族会








第944条

 本法其の他の法令の規定に依り親族会を開くべき場合に於いては会議を要する事件の本人、戸主、親族、後見人、後見監督人、保佐人、検事又は利害関係人の請求に因り裁判所之を招集す。


第945条

  1.  親族会員は3人以上とし親族其の他本人又は其の家に縁故ある者の中より裁判所之を選定す。

  2.  後見人を指定することを得る者は遺言を以て親族会員を選定することを得。



第946条

  1.  遠隔の地に居住する者其の他正当の事由ある者は親族会員たることを辞することを得。

  2.  後見人、後見監督人及び保佐人は親族会員たることを得ず。

  3.  第908条の規定は親族会員に之を準用す。



第947条

  1.  親族会の議事は会員の過半数を以て之を決す。

  2.  会員は自己の利害に関する議事に付き表決の数に加はることを得ず。



第948条

  1.  本人、戸主、家に在る父母、配偶者、本家並に分家の戸主、後見人、後見監督人及び保佐人は親族会に於いて其の意見を述ぶることを得。

  2.  親族会の招集は前項に掲げたる者に之を通知することを要す。



第949条

 無能力者の為めに設けたる親族会は其の者の無能力の止むまで継続す。
此親族会は最初の招集の場合を除く外本人、其の法定代理人、後見監督人、保佐人又は会員之を招集す。


第950条

 親族会に欠員を生じたるときは会員は補欠員の選定を裁判所に請求することを要す。


第951条

 親族会の決議に対しては1か月内に会員又は第944条に掲げたる者より其の不服を裁判所に訴うることを得。


第952条

 親族会が決議を為すこと能わざるときは会員は其の決議に代わるべき裁判を為すことを裁判所に請求することを得。


第953条

 第644条の規定は親族会員に之を準用す。








  第8章 扶養の義務








第954条

  1.  直系血族及び兄弟姉妹は互に扶養を為す義務を負う。

  2.  夫婦の一方と他の一方の直系尊属にして其の家に在る者との間亦同じ。



第955条

  1.  扶養の義務を負う者数人ある場合に於いては其の義務を履行すべき者の順序左の如し。



  2.  直系卑属又は直系尊属の間に於いては其の親等の最も近き者を先にす。
    前条第2項に掲げたる直系尊属間亦同じ。



第956条

 同順位の扶養義務者数人あるときは各其の資力に応じて其の義務を分担す。
但し、家に在る者と家に在らざる者との間に於いては家に在る者先ず扶養を為すことを要す。


第957条

  1.  扶養を受くる権利を有する者数人ある場合に於いて扶養義務者の資力が其の全員を扶養するに足らざるときは扶養義務者は左の順序に従い扶養を為すことを要す。



  2.  第955条第2項の規定は前項の場合に之を準用す。



第958条

  1.  同順位の扶養権利者数人あるときは各其の需要に応じて扶養を受くることを得。

  2.  第956条但書の規定は前項の場合に之を準用す。



第959条

  1.  扶養の義務は扶養を受くべき者が自己の資産又は労務に依りて生活を為すこと能わざるときにのみ存在す。
    自己の資産に依りて教育を受くること能わざるとき亦同じ。

  2.  兄弟姉妹間に在りては扶養の義務は扶養を受くる必要が之を受くべき者の過失に因らずして生じたるときにのみ存在す。
    但し、扶養義務者が戸主なるときは此の限りに在らず。



第960条

 扶養の程度は扶養権利者の需要と扶養義務者の身分及び資力とに依りて之を定む。


第961条

 扶養義務者は其の選択に従い扶養権利者を引取りて之を養ひ又は之を引取らずして生活の資料を給付することを要す。
但し、正当の事由あるときは裁判所は扶養権利者の請求に因り扶養の方法を定むることを得。


第962条

 扶養の程度は方法が判決に因りて定まりたる場合に於いて其の判決の根拠と為りたる事情に変更を生じたるときは当事者は其の判決の変更又は取消を請求することを得。


第963条

 扶養を受くる権利は之を処分することを得ず。
















第5編 相続








 第1章 家督相続








  第1節 総則








第964条

 家督相続は左の事由に因りて開始す。

  1.  戸主の死亡、隠居又は国籍喪失。

  2.  戸主が婚姻又は養子縁組の取消に因りて其の家を去りたるとき。

  3.  女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚。



第965条

 家督相続は被相続人の住所に於いて開始す。


第966条

 家督相続回復の請求権は家督相続人又は其の法定代理人が相続権侵害の事実を知りたる時より5年間之を行わざるときは時効に因りて消滅す。
相続開始の時より20年を経過したるとき亦同じ。


第967条

  1.  相続財産に関する費用は其の財産中より之を支弁す。
    但し、家督相続人の過失に因るものは此の限りに在らず。

  2.  前項に掲げたる費用は遺留分権利者が贈与の滅殺に因りて得たる財産を以て之を支弁することを要せず。









  第2節 家督相続人








第968条

  1.  胎児は家督相続に付いては既に生まれたるものと看做す。

  2.  前項の規定は胎児が死体にて生まれたるときは之を適用せず


第969条

 左に掲げたる者は家督相続人たることを得ず。

  1.  故意に被相続人又は家督相続に付き先順位に在る者を死に致し又は死に致さんとしたる為め刑に処せられたる者。

  2.  被相続人の殺害せられたることを知りて之を告発又は告訴せざりし者。
    但し、其の者に是非の弁別なきとき又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族なりしときは此の限りに在らず。

  3.  詐欺又は強迫に因り被相続人が相続に関する遺言を為し、之を取消し又は之を変更することを妨げたる者。

  4.  詐欺又は強迫に因り被相続人をして相続に関する遺言を為さしめ、之を取消さしめ又は之を変更せしめたる者。

  5.  相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、毀滅又は蔵匿したる者。



第970条

  1.  被相続人の家族たる直系卑属は左の規定に従い家督相続人と為る。

    1.  親等の異なりたる者の間に在りては其の近き者を先にす。

    2.  親等の同じき者の間に在りては男を先にす。

    3.  親等の同じき男又は女の間に在りては嫡出子を先にす。

    4.  親等の同じき者の間に在りては女と雖も嫡出子及び庶子を先にす。

    5.  前4号に掲げたる事項に付き相同じき者の間に在りては年長者を先にす。



  2.  第836条の規定に依り又は養子縁組に因りて嫡出子たる身分を取得したる者は家督相続に付ては其の嫡出子たる身分を取得したる時に生れたるものと看做す。



第971条

 前条の規定は第736条の適用を妨げず。


第972条

 第737条及び第738条の規定に依りて家族と為りたる直系卑属は嫡出子又は庶子たる他の直系卑属なき場合に限り第970条に定めたる順序に従いて家督相続人と為る。

第973条

 法定の推定家督相続人は其の姉妹の為にする養子縁組に因りて其の相続権を害せらるることなし。


第974条

  1.  第970条及び第972条の規定に依りて家督相続人たるべき者が家督相続の開始前に死亡し又は其の相続権を失いたる場合に於いて其の者に直系卑属あるときは其の直系卑属は第970条及び第972条に定めたる順序に従い其の者と同順位に於いて家督相続人と為る。
  2.  前項の規定の適用に付ては胎児は既に生まれたるものと看做す。
    但し、死体にて生まれたるときは此の限りに在らず。



第975条

  1.  法定の推定家督相続人に付き左の事由あるときは被相続人は其の推定家督相続人の廃除を裁判所に請求することを得。

    1.  被相続人に対して虐待を為し又は之に重大なる侮辱を加えたること。

    2.  疾病其の他身体又は精神の状況に因り家政を執るに堪えざるべきこと。

    3.  家名に汚辱を及ぼすべき罪に因りて刑に処せられたること。

    4.  浪費者として準禁治産の宣告を受け改悛の望みなきこと。


  2.  此の他正当の事由あるときは被相続人は親族会の同意を得て其の廃除を請求することを得。



第976条

 被相続人が遺言を以て推定家督相続人を廃除する意思を表示したるときは遺言執行者は其の遺言が効力を生じたる後遅滞なく裁判所に廃除の請求を為すことを要す。
此の場合に於いて廃除は被相続人の死亡の時に遡りて其の効力を生ず。


第977条

  1.  推定家督相続人廃除の原因止みたるときは被相続人又は推定家督相続人は廃除の取消を裁判所に請求することを得。

  2.  第975条第1項第1号の場合に於いては被相続人は何時にても廃除の取消を請求することを得。

  3.  前2項の規定は相続開始の後は之を適用せず。

  4.  前条の規定は廃除の取消に之を準用す。



第978条

  1.  推定家督相続人の廃除又は其の取消の請求ありたる後其の裁判確定前に相続が開始したるときは裁判所は親族、利害関系人又は検事の請求に因り戸主権の行使及び遺産の管理に付き必要なる処分を命ずることを得。
    廃除の遺言ありたるとき亦同じ。

  2.  裁判所が管理人を選任したる場合に於いては第27条ないし第29条の規定を準用す。



第979条

  1.  法定の推定家督相続人なきときは被相続人は家督相続人を指定することを得。
    此指定は法定の推定家督相続人あるに至りたるときは其の効力を失う。

  2.  家督相続人の指定は之を取消すことを得。

  3.  前2項の規定は死亡又は隠居に因る家督相続の場合にのみ之を適用す。



第980条

 家督相続人の指定及び其の取消は之を戸籍吏に届出つるに因りて其の効力を生ず。


第981条

 被相続人が遺言を以て家督相続人の指定又は其の取消を為す意思を表示したるときは遺言執行者は其の遺言の効力を生じたる後遅滞なく之を戸籍吏に届出つること要す。
此の場合に於いて指定又は其の取消は被相続人の死亡の時に遡りて其の効力を生ず


第982条

 法定又は指定の家督相続人なき場合に於いて其の家に被相続人の父あるときは父、父あらざるとき又は父が其の意思を表示すること能わざるときは母、父母共にあらざるとき又は其の意思を表示すること能わざるときは親族会は左の順序に従い家族中より家督相続人を選定す。




第983条

 家督相続人を選定すべき者は正当の事由ある場合に限り裁判所の許可を得て前条に掲げたる順序を変更し又は選定を為さざることを得。


第984条

 第982条の規定によりて家督相続人たる者なきときは家に在る直系尊属中親等の最も近き者家督相続人と為る。
但し、親等の同じき者の間に在りては男を先にす。


第985条

  1.  前条の規定に依りて家督相続人たる者なきときは親族会は被相続人の親族、家族、分家の戸主又は本家若しくは分家の家族中より家督相続人を選定す。

  2.  前項に掲げたる者の中に家督相続人たるべき者なきときは親族会は他人の中より之を選定す。

  3.  親族会は正当の事由ある場合に限り前2項の規定に拘わらず裁判所の許可を得て他人を選定することを得。









  第3節 家督相続の効力








第986条

 家督相続人は相続開始の時より前戸主の有せし権利義務を承継す。
但し、前戸主の一身に専属せるものは此の限りに在らず。


第987条

 系譜、祭具及び墳墓の所有権は家督相続の特権に属す。


第988条

 隠居者及び入夫婚姻を為す女戸主は確定日付ある証書に依りて其の財産を留保することを得。
但し、家督相続人の遺留分に関する規定に違反することを得ず。


第989条

  1.  隠居又は入夫婚姻に因る家督相続の場合に於いては前戸主の債権者は其の前戸主に対して弁済の請求を為すことを得。

  2.  入夫婚姻の取消又は入夫の離婚に因る家督相続の場合に於いては入夫が戸主たりし間に負担したる債務の弁済は其の入夫に対して之を請求することを得。

  3.  前2項の規定は家督相続人に対する請求を妨げず。



第990条

  1.  国籍喪失者の家督相続人は戸主権及び家督相続の特権に属する権利のみを承継す。
    但し、遺留分及び前戸主が特に指定したる相続財産を承継することを妨げず。

  2.  国籍喪失者が国籍の喪失に因りて其の有する権利を享有することを得ざるに至りたる場合に於いて1年内に之を譲渡ささるときは其の権利は家督相続人に帰属す。



第991条

 国籍喪失に因る家督相続の場合に於いては前戸主の債権者は家督相続人に対しては其の受けたる財産の限度に於いてのみ弁済の請求を為すことを得。








 第2章 遺産相続








  第1節 総則


第992条

 遺産相続は家族の死亡に因りて開始す。


第993条

 第965条ないし第968条の規定は遺産相続に之を準用す。








  第2節 遺産相続人







第994条

 被相続人の直系卑属は左の規定に従い遺産相続人と為る。

  1.  親等の異なりたる者の間に在りては其の近き者を先にす。

  2.  親等の同じき者は同順位に於いて遺産相続人と為る。



第995条

  1.  前条の規定に依りて遺産相続人たるべき者が相続の開始前に死亡し又は其の相続権を失いたる場合に於いて其の者に直系卑属あるときは其の直系卑属は前条の規定に従い其の者と同順位に於いて遺産相続人と為る。

  2.  第974条第2項の規定は前項の場合に之を準用す。



第996条

  1.  前2条の規定に依りて遺産相続人たるべき者なき場合に於いて遺産相続を為すべき者の順位左の如し。



  2.  前項第2号の場合に於いては第994条の規定を準用す。



第997条

 左に掲げたる者は遺産相続人たることを得ず。

  1.  故意に被相続人又は遺産相続に付き先順位若しくは同順位に在る者を死に致し又は死に致さんとしたる為め刑に処せられたる者。

  2.  第969条第2号ないし第5号に掲げたる者。



第998条

 遺留分を有する推定遺産相続人が被相続人に対して虐待を為し又は之に重大なる侮辱を加えたるときは被相続人は其の推定遺産相続人の廃除を裁判所に請求することを得。


第999条

 被相続人は何時にても推定遺産相続人廃除の取消を裁判所に請求することを得。


第1000条

 第976条及び第978条の規定は推定遺産相続人の廃除及び其の取消に之を準用す。








  第3節 遺産相続の効力








   第1款 総則








第1001条

 遺産相続人は相続開始の時より被相続人の財産に属せし一切の権利義務を承継す。
但し、被相続人の一身に専属せしものは此の限りに在らず。


第1002条

 遺産相続人数人あるときは相続財産は其の共有に属す。


第1003条

 各共同相続人は其の相続分に応じて被相続人の権利義務を承継す。








   第2款 相続分








第1004条

 同順位の相続人数人あるときは其の各自の相続分は相均しきものとす。
但し、直系卑属数人あるときは嫡出にあらざる子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1とす。


第1005条

 第995条の規定に依りて相続人たる直系卑属の相続分は其の直系尊属が受くべかりしものに同じ。
但し、直系卑属数人あるときは其の各自の直系尊属が得くべかりし部分に付き前条の規定に従いて其の相続分を定む。


第1006条

  1.  被相続人は前2条の規定に拘わらず遺言を以て共同相続人の相続分を定め又は之を定むることを第三者に委託することを得。
    但し、被相続人又は第三者は遺留分に関する規定に違反することを得ず。

  2.  被相続人が共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め又は之を定めしめたるときは他の共同相続人の相続分は前2条の規定に依りて之を定む。



第1007条

  1.  共同相続人中被相続人より遺贈を受け又は婚姻、養子縁組、分家、廃絶家再興の為め若しくは生計の資本として贈与を受けたる者あるときは被相続人が相続開始の時に於いて有せし財産の価額に其の贈与の価額を加えたるものを相続財産と看倣し前3条の規定に依りて算定したる相続分の中より其の遺贈又は贈与の価額を控除し其の残額を以て其の者の相続分とす。

  2.  遺贈又は贈与の価額が相続分の価額に等しく又は之に超ゆるときは受遺者又は受贈者は其の相続分を受くることを得ず。

  3.  被相続人が前2項の規定に異なりたる意思を表示したるときは其の意思表示は遺留分に関する規定に反せざる範囲内に於いて其の効力を有す。



第1008条

 前条に掲げたる贈与の価額は受贈者の行為に因り其の目的たる財産が滅失し又は其の価額の増減ありたるときと雖も相続開始の当時仍ほ現状にて存するものと看倣して之を定む。


第1009条

  1.  共同相続人の一人が分割前に其の相続分を第三者に譲渡したるときは他の共同相続人は其の価額及び費用を償還して其の相続分を譲受くることを得。

  2.  前項に定めたる権利は1か月内に之を行使することを要す。









   第3款 遺産の分割








第1010条

 被相続人は遺言を以て分割の方法を定め又は定むることを第三者に委託することを得。


第1011条

 被相続人は遺言を以て相続開始の時より5年を超えざる期間内分割を禁ずることを得。


第1012条

 遺産の分割は相続開始の時に遡りて其の効力を生ず。


第1013条

 各共同相続人は相続開始前より存する事由に付き他の共同相続人に対し売主と同じく其の相続分に応じて担保の責に任ず。


第1014条

  1.  各共同相続人は其の相続分に応じ他の共同相続人が分割に因りて受けたる債権に付き分割の当時に於ける債務者の資力を担保す。

  2.  弁済期に在らざる債権及び停止条件付債権に付ては各共同相続人は弁済を為すべき時に於ける債務者の資力を担保す。



第1015条

 担保の責に任ずる共同相続人中償還を為す資力なき者あるときは其の償還すること能わざる部分は求償者及び他の資力ある者各其の相続分に応じて之を分担す。
但し、求償者に過失あるときは他の共同相続人に対して分担を請求することを得ず。


第1016条

 前3条の規定は被相続人が遺言を以て別段の意思を表示したるときは之を適用せず。








 第3章 相続の承認及び放棄








  第1節 総則








第1017条

  1.  相続人は自己の為めに相続の開始ありたることを知りたる時より3か月内に単純若しくは限定の承認又は放棄を為すことを要す。
    但し、此期間は利害関係人又は検事の請求に因り裁判所に於いて之を伸長することを得。

  2.  相続人は承認又は放棄を為す前に相続財産の調査を為すことを得。



第1018条

 相続人が承認又は放棄を為さずして死亡したるときは前条第1項の期間は其の者の相続人が自己の為めに相続の開始ありたることを知りたる時より之を起算す。


第1019条

 相続人が無能力者なるときは第1017条第1項の期間は其の法定代理人が無能力者の為めに相続の開始ありたることを知りたる時より之を起算す。


第1020条

 法定家督相続人は放棄を為すことを得ず。
但し、第984条に掲げたる者は此の限りに在らず。


第1021条

  1.  相続人は其の固有財産に於けると同一の注意を以て相続財産を管理することを要す。
    但し、承認又は放棄を為したるときは此の限りに在らず。

  2.  裁判所は利害関係人又は検事の請求に因り何時にても相続財産の保存に必要なる処分を命ずることを得。

  3.  裁判所が管理人を選任したる場合に於いては第27条ないし第29条の規定を準用す。



第1022条

  1.  承認及び放棄は第1017条第1項の期間内と雖も之を取消すことを得ず。

  2.  前項の規定は第1編及び前編の規定に依りて承認又は放棄の取消を為すことを妨げず。
    但し、其の取消権は追認を為すことを得る時より6か月間之を行わざるときは時効に因りて消滅す。
    承認又は放棄の時より10年を経過したるとき亦同じ。









  第2節 承認








   第1款 単純承認








第1023条

 相続人が単純承認を為したるときは無限に被相続人の権利義務を承継す。


第1024条

 左に掲げたる場合に於いては相続人は単純承認を為したるものと看倣す。

  1.  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したるとき。
    但し、保存行為及び第602条に定めたる期間を超えざる賃貸を為すは此の限りに在らず。

  2.  相続人が第1017条第1項の期間内に限定承認又は放棄を為さざりしとき。

  3.  相続人が限定承認又は放棄を為したる後と雖も相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私に之を消費し又は悪意を以て之を財産目録中に記載せざりしとき。
    但し、其の相続人が放棄を為したるに因りて相続人と為りたる者が承認を為したる後は此の限りに在らず。









   第2款 限定承認








第1025条

 相続人は相続に因りて得たる財産の限度に於いてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して承認を為すことを得。


第1026条

 相続人が限定承認を為さんと欲するときは第1017条第1項の期間内に財産目録を調製して之を裁判所に提出し限定承認を為す旨を申述することを要す。


第1027条

 相続人が限定承認を為したるときは其の被相続人に対して有せし権利義務は消滅せざりしものと看倣す。


第1028条

  1.  限定承認者は其の固有財産に於けると同一の注意を以て相続財産の管理を継続することを要す。

  2.  第645条、第646条、第650条第1項、第2項及び第1021条第2項、第3項の規定は前項の場合に之を準用す。



第1029条

  1.  限定承認者は限定承認を為したる後5日内に一切の相続債権者及び受遺者に対し限定承認を為したること及び一定の期間内に其の請求の申出を為すべき旨を公告することを要す。
    但し、其の期間は2か月を下ることを得ず。

  2.  第79条第2項及び第3項の規定は前項の場合に之を準用す。



第1030条

 限定承認者は前条第1項の期間満了前には相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことを得。


第1031条

 第1029条第1項の期間満了の後は限定承認者は相続財産を以て其の期間内に申出でたる債権者其の他知れたる債権者に各其の債権額の割合に応じて弁済を為すことを要す。
但し、優先権を有する債権者の権利を害することを得ず。


第1032条

  1.  限定承認者は弁済期に至らざる債権と雖も前条の規定に依りて之を弁済することを要す。

  2.  条件付債権又は存続期間の不確定なる債権は裁判所に於いて選任したる鑑定人の評価に従いて之を弁済することを要す。



第1033条

 限定承認者は前2条の規定に依りて各債権者に弁済を為したる後にあらざれば受遺者に弁済を為すことを得ず。


第1034条

 前3条の規定に従いて弁済を為すに付き相続財産の売却を必要とするときは限定承認者は之を競売に付することを要す。
但し、裁判所に於いて選任したる鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して其の競売を止むることを得。


第1035条

 相続債権者及び受遺者は自己の費用を以て相続財産の競売又は鑑定に参加することを得。
此の場合に於いては第260条第2項の規定を準用す。


第1036条

  1.  限定承認者が第1029条に定めたる公告若しくは催告を為すことを怠り又は同条第1項の期間内に或債権者若しくは受遺者に弁済を為したるに因り他の債権者若しくは受遺者に弁済を為すこと能わざるに至りたるときは之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず。
    第1030条ないし第1033条の規定に違反して弁済を為したるとき亦同じ。

  2.  前項の規定は情を知りて不当に弁済を受けたる債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げず。

  3.  第724条の規定は前2項の場合にも亦之を準用す。



第1037条

 第1029条第1項の期間内に申出でざりし債権者及び受遺者にして限定承認者に知れざりし者は残余財産に付てのみ其の権利を行うことを得。
但し、相続財産に付き特別担保を有する者は此の限りに在らず。








  第3節 放棄








第1038条

 相続の放棄を為さんと欲する者は其の旨を裁判所に申述することを要す。


第1039条

  1.  放棄は相続開始の時に遡りて其の効力を生ず。

  2.  数人の遺産相続人ある場合に於いて其の一人が放棄を為したるときは其の相続分は他の相続人の相続分に応じて之に帰属す。



第1040条

  1.  相続の放棄を為したる者は其の放棄に因りて相続人と為りたる者が相続財産の管理を始むることを得るまで自己の財産に於けると同一の注意を以て其の財産の管理を継続することを要す。

  2.  第645条、第646条、第650条第1項、第2項及び第1021条第2項、第3項の規定は前項の場合に之を準用す。









 第4章 財産の分離








第1041条

  1.  相続債権者又は受遺者は相続開始の時より3か月内に相続人の財産中より相続財産を分離せんことを裁判所に請求することを得。
    其の期間満了の後と雖も相続財産が相続人の固有財産と混合せざる間亦同じ。

  2.  裁判所が前項の請求に因りて財産の分離を命じたるときは其の請求を為したる者は5日内に他の相続債権者及び受遺者に対し財産分離の命令ありたること及び一定の期間内に配当加入の申出を為すべき旨を公告することを要す。
    但し、其の期間は2か月を下ることを得ず。



第1042条

 財産分離の請求を為したる者及び前条第2項の規定に依りて配当加入の申出を為したる者は相続財産に付き相続人の債権者に先ちて弁済を受く。


第1043条

  1.  財産分離の請求ありたるときは裁判所は相続財産の管理に付き必要なる処分を命ずることを得。

  2.  裁判所が管理人を選任したる場合に於いては第27条ないし第29条の規定を準用す。



第1044条

  1.  相続人は単純承認を為したる後と雖も財産分離の請求ありたるときは爾後其の固有財産に於けると同一の注意を以て相続財産の管理を為すことを要す。
    但し、裁判所に於いて管理人を選任したるときは此の限りに在らず。

  2.  第645条ないし第647条及び第650条第1項、第2項の規定は前項の場合に準用す。



第1045条

 財産の分離は不動産に付ては其の登記を為すにあらざれば之を以て第三者に対抗することを得ず。


第1046条

 第304条の規定は財産分離の場合に之を準用す。


第1047条

  1.  相続人は第1041条第1項及び第2項の期間満了前には相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことを得。

  2.  財産分離の請求ありたるときは相続人は第1041条第2項の期間満了の後相続財産を以て財産分離の請求又は配当加入の申出を為したる債権者及び受遺者に各其の債権の割合に応じて弁済を為すことを要す。
    但し、優先権を有する債権者の権利を害することを得ず。

  3.  第1032条ないし第1036条の規定は前項の場合に之を準用す。



第1048条

 財産分離の請求を為したる者及び配当加入の申出を為したる者は相続財産を以て全部の弁済を受くること能わざりし場合に限り相続人の固有財産に付き其の権利を行うことを得。
此の場合に於いては相続人の債権者は其の者に先ちて弁済を受くることを得。


第1049条

 相続人は其の固有財産を以て相続債権者若しくは受遺者に弁済を為し又は之に相当の担保を供して財産分離の請求を防止し又は其の効力を消滅せしむることを得。
但し、相続人の債権者が之に因りて損害を受くべきことを証明して意義を述べたるときは此の限りに在らず。


第1050条

  1.  相続人が限定承認を為すことを得る間又は相続財産が相続人の固有財産と混合せざる間は其の債権者は財産分離の請求を為すことを得。

  2.  第304条、第1027条、第1029条ないし第1036条、第1043条ないし第1045条及び第1048条の規定は前項の場合に之を準用す。
    但し、第1029条に定めたる公告及び催告は財産分離の請求を為したる債権者之を為すことを要す。









 第5章 相続人の曠欠








第1051条

 相続人あること分明ならざるときは相続財産は之を法人とす。


第1052条

  1.  前条の場合に於いては裁判所は利害関係人又は検事の請求に因り相続財産の管理人を選任することを要す。

  2.  裁判所は遅滞なく管理人の選任を公告することを要す。



第1053条

 第27条ないし第29条の規定は相続財産の管理人に之を準用す。


第1054条

 管理人は相続債権者又は受遺者の請求あるときは之に相続財産の状況を報告することを要す。


第1055条

 相続人あること分明なるに至りたるときは法人は存立せざりしものと看倣す。
但し、管理人が其の権限内に於いて為したる行為の効力を妨げず。


第1056条

  1.  管理人の代理権は相続人が相続の承認を為したる時に於いて消滅す。

  2.  前項の場合に於いては管理人は遅滞なく相続人に対して管理の計算を為すことを要す。



第1057条

  1.  第1052条第2項に定めたる公告ありたる後2か月内に相続人あること分明なるに至らざるときは管理人は遅滞なく一切の相続債権者及び受遺者に対し一定の期間内に其の請求の申出を為すべき旨を公告することを要す。
    但し、其の期間は2か月を下ることを得ず。

  2.  第79条第2項、第3項及び第1030条ないし第1037条の規定は前項の場合に之を準用す。
    但し、第1034条但書の規定は此の限りに在らず。



第1058条

 前条第1項の期間満了の後仍ほ相続人あること分明ならざるときは裁判所は管理人又は検事の請求に因り相続人あらば一定の期間内に其の権利を主張すべき旨を公告することを要す。
但し、其の期間は1年を下ることを得ず。


第1059条

  1.  前条の期間内に相続人たる権利を主張する者なきときは相続財産は国庫に帰属す。
    此の場合に於いては第1056条第2項の規定を準用す。

  2.  相続債権者及び受遺者は国庫に対して其の権利を行うことを得ず。









 第6章 遺言








  第1節 総則








第1060条

 遺言は本法に定めたる方式に従うにあらざれば之を為すことを得ず。


第1061条

 満15年に達したる者は遺言を為すことを得。


第1062条

 第4条、第9条、第12条及び第14条の規定は遺言には之を適用せず。


第1063条

 遺言者は遺言を為す時に於いて其の能力を有することを要す。


第1064条

 遺言者は包括又は特定の名義を以て其の財産の全部又は一部を処分することを得。
但し、遺留分に関する規定に違反することを得ず。


第1065条

 第968条及び第969条の規定は受遺者に之を準用す。


第1066条

  1.  被後見人が後見の計算終了前に後見人又は其の配偶者若しくは直系卑属の利益と為るべき遺言を為したるときは其の遺言は無効とす。

  2.  前項の規定は直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人たる場合には之を適用せず。









  第2節 遺言の方式








   第1款 普通方式








第1067条

 遺言は自筆証書、公正証書又は秘密証書に依りて之を為すことを要す。
但し、特別方式に依ることを許す場合は此の限りに在らず。


第1068条

  1.  自筆証書に依りて遺言を為すには遺言者其の全文、日付及び氏名を自書し之に捺印することを要す。

  2.  自筆証書中の挿入、削除其の他の変更は遺言者其の場所を指示し之を変更したる旨を付記して特に之に署名し且其の変更の場所に捺印するにあらざれば其の効なし。



第1069条

 公正証書に依りて遺言を為すには左の方式に従うことを要す。

  1.  証人2人以上の立会あること。

  2.  遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

  3.  公証人が遺言者の口述を筆記し之を遺言者及び証人に読聞かすこと。

  4.  遺言者及び証人が筆記の正確なることを承認したる後各自之に署名、捺印すること。
    但し、遺言者か署名すること能わざる場合に於いては公証人其の事由を付記して署名に代ふることを得。

  5.  公証人が其の証書は前4号に掲げたる方式に従いて作りたるものなる旨を付記して之に署名、捺印すること。



第1070条

  1.  秘密証書に依りて遺言を為すには左の方式に従うことを要す。

    1.  遺言者が其の証書に署名、捺印すること。

    2.  遺言者が其の証書を封し証書に用いたる印象を以て之に封印すること。

    3.  遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して自己の遺言者なる旨及び其の筆者の氏名、住所を申述すること。

    4.  公証人が其の証書提出の日付及び遺言者の申述を封紙に記載したる後遺言者及び証人と共に之に署名、捺印すること。


  2.  第1068条第2項の規定は秘密証書に依る遺言に之を準用す。



第1071条

 秘密証書に依る遺言は前条に定めたる方式に欠くるものあるも第1068条の方式を具備するときは自筆証書に依る遺言として其の効力を有す。


第1072条

  1.  言語を発すること能わざる者が秘密証書に依りて遺言を為す場合に於いては遺言者は公証人及び証人の前に於いて其の証書は自己の遺言書なる旨並に其の筆者の氏名、住所を封紙に自書して第1070条第1項第3号の申述に代ふることを要す。

  2.  公証人は遺言者が前項に定めたる方式を践みたる旨を封紙に記載して申述の記載に代ふることを要す。



第1073条

  1.  禁治産者が本心に復したる時に於いて遺言を為すには医師2人以上の立会あることを要す。

  2.  遺言に立会いたる医師は遺言者が遺言を為す時に於いて心神喪失の状況に在らざりし旨を遺言書に付記して之に署名、捺印することを要す。
    但し、秘密証書に依りて遺言を為す場合に於いては其の封紙に右の記載及び署名、捺印を為すことを要す。



第1074条

 左に掲げたる者は遺言の証人又は立会人たることを得ず。

  1.  未成年者。

  2.  禁治産者及び準禁治産者。

  3.  剥奪公権者及び停止公権者。

  4.  遺言者の配偶者。

  5.  推定相続人、受遺者及び其の配偶者並に直系血族。

  6.  公証人と家を同じくする者及び公証人の直系血族並に筆生、雇人。



第1075条

 遺言は2人以上同一の証書を以て之を為すことを得ず。








   第2款 特別方式








第1076条

  1.  疾病其の他の事由に因りて死亡の危急に迫りたる者が遺言を為さんと欲するときは証人3人以上の立会を以て其の1人に遺言の趣旨を口授して之を為すことを得。
    此の場合に於いては其の口授を受けたる者之を筆記して遺言者及び他の証人に読聞かせ各証人其の筆記の正確なることを承認したる後之に署名、捺印することを要す。

  2.  前項の規定に依りて為したる遺言は遺言の日より20日内に証人の1人又は利害関係人より裁判所に請求して其の確認を得るにあらざれば其の効なし。

  3.  裁判所は遺言が遺言者の真意に出でたる心証を得るにあらざれば之を確認することを得ず。



第1077条

 伝染病の為め行政処分を以て交通を遮断したる場所に在る者は警察官1人及び証人1人以上の立会を以て遺言書を作ることを得。


第1078条

  1.  従軍中の軍人及び軍属は将校又は相当官1人及び証人2人以上の立会を以て遺言書を作ることを得。
    若し将校及び相当官が其の場所に在らざるときは準士官又は下士1人を以て之に代ふることを得。

  2.  従軍中の軍人又は軍属が疾病又は傷痍の為め病院に在るときは其の院の医師を以て前項に掲げたる将校又は相当官に代ふることを得。



第1079条

  1.  従軍中疾病、傷痍其の他の事由に因りて死亡の危急に迫りたる軍人及び軍属は証人2人以上の立会を以て口頭にて遺言を為すことを得。

  2.  前項の規定に従いて為したる遺言は証人其の趣旨を筆記して之に署名、捺印し且証人の1人又は利害関係人より遅滞なく理事又は主理に請求して其の確認を得るにあらざれば其の効なし。

  3.  第1076条第3項の規定は前項の場合に之を準用す。



第1080条

  1.  艦船中に在る者は軍艦及び海軍所属の船舶に於いては将校又は相当官1人及び証人2人以上其の他の船舶に於いては船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会を以て遺言書を作ることを得。

  2.  前項の場合に於いて将校又は相当官が其の艦船中に在らざるときは準士官又は下士1人を以て之に代ふることを得。



第1081条

 第1079条の規定は艦船遭難の場合に之を準用す。
但し、海軍の所属にあらざる船舶中に在る者が遺言を為したる場合に於いては其の確認は之を裁判所に請求することを要す。


第1082条

 第1077条、第1078条及び第1080条の場合に於いては遺言者、筆者、立会人及び証人は各自遺言書に署名、捺印することを要す。


第1083条

 第1077条ないし第1081条の場合に於いて署名又は捺印すること能わざる者あるときは立会人又は証人は其の事由を付記することを要す。


第1084条

 第1068条第2項及び第1073条ないし第1075条の規定は前8条の規定に依る遺言に之を準用す。


第1085条

 前9条の規定に依りて為したる遺言は遺言者が普通方式に依りて遺言を為すことを得るに至りたる時より6か月間生存するときは其の効なし。


第1086条

 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書に依りて遺言を為さんと欲するときは公証人の職務は領事之を行う。








  第3節 遺言の効力








第1087条

  1.  遺言は遺言者の死亡の時より其の効力を生ず。

  2.  遺言に停止条件を付したる場合に於いて其の条件が遺言者の死亡後に成就したるときは遺言は条件成就の時より其の効力を生ず。



第1088条

  1.  受遺者は遺言者の死亡後何時にても遺贈の放棄を為すことを得。

  2.  遺贈の放棄は遺言者の死亡の時に遡りて其の効力を生ず。



第1089条

 遺贈義務者其の他の利害関係人は相当の期間を定め其の期間内に遺贈の承認又は放棄を為すべき旨を受遺者に催告することを得。
若し受遺者が其の期間内に遺贈義務者に対して其の意思を表示せざるときは遺贈を承認したるものと看倣す。


第1090条

 受遺者が遺贈の承認又は放棄を為さずして死亡したるときは其の相続人は自己の相続権の範囲内に於いて承認又は放棄を為すことを得。
但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。


第1091条

  1.  遺贈の承認及び放棄は之を取消すことを得ず。

  2.  第1022条第2項の規定は遺贈の承認及び放棄に之を準用す



第1092条

 包括受遺者は遺産相続人と同一の権利義務を有す。


第1093条

 受遺者は遺贈か弁済期に至らざる間は遺贈義務者に対して相当の担保を請求することを得。
停止条件付遺贈に付き其の条件の成否未定の間亦同じ。


第1094条

 受遺者は遺贈の履行を請求することを得る時より果実を取得す。
但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。


第1095条

  1.  遺贈義務者が遺言者の死亡後遺贈の目的物に付き費用を出だしたるときは第299条の規定を準用す。

  2.  果実を収取する為めに出だしたる通常の必要費は果実の価格を超えざる限度に於いて其の償還を請求することを得。



第1096条

  1.  遺贈は遺言者の死亡前に受遺者が死亡したるときは其の効力を生ぜず。

  2.  停止条件付遺贈に付ては受遺者が其の条件の成就前に死亡したるとき亦同じ。
    但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。



第1097条

 遺贈が其の効力を生ぜざるとき又は放棄に因り其の効力なきに至りたるときは受遺者が受くべかりしものは相続人に帰属す。
但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。


第1098条

 遺贈は其の目的たる権利が遺言者の死亡の時に於いて相続財産に属せざるときは其の効力を生ぜず。
但し、其の権利が相続財産に属せざることあるに拘わらず之を以て遺贈の目的と為したるものと認むべきときは此の限りに在らず。


第1099条

 相続財産に属せざる権利を目的とする遺贈が前条但書の規定に依りて有効なるときは遺贈義務者は其の権利を取得して之を受遺者に移転する義務を負う。
若し之を取得すること能わざるか又は之を取得するに付き過分の費用を要するときは其の価額を弁償することを要す。
但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。


第1100条

  1.  不特定物を以て遺贈の目的と為したる場合に於いて受遺者か追奪を受けたるときは遺贈義務者は之に対して売主と同じく担保の責に任ず。

  2.  前項の場合に於いて物に瑕疵ありたるときは遺贈義務者は瑕疵なき物を以て之に代ふることを要す。



第1101条

  1.  遺言者が遺贈の目的物の滅失若しくは変造又は其の占有の喪失に因り第三者に対して償金を請求する権利を有するときは其の権利を以て遺贈の目的と為したるものと推定す。

  2.  遺贈の目的物が他の物と付合又は混和したる場合に於いて遺言者が第243条ないし第245条の規定に依り合成物又は混和物の単独所有者又は共有者と為りたるときは其の全部の所有権又は共有権を以て遺贈の目的と為したるものと推定す。



第1102条

 遺贈の目的たる物又は権利が遺言者の死亡の時に於いて第三者の権利の目的たるときは受遺者は遺贈義務者に対し其の権利を消滅せしむべき旨を請求することを得ず。
但し、遺言者が其の遺言に反対の意思を表示したるときは此の限りに在らず。


第1103条

  1.  債権を以て遺贈の目的と為したる場合に於いて遺言者が弁済を受け且其の受取りたる物が尚ほ相続財産中に存するときは其の物を以て遺贈の目的と為したるものと推定す。

  2.  金銭を目的とする債権に付ては相続財産中に其の債権額に相当する金銭なきときと雖も其の金額を以て遺贈の目的と為したるものと推定す。



第1104条

  1.  負担付遺贈を受けたる者は遺贈の目的の価額を超えざる限度に於いてのみ其の負担したる義務を履行する責に任ず。

  2.  受遺者が遺贈の放棄を為したるときは負担の利益を受くべき者自ら受遺者と為ることを得。
    但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。



第1105条

 負担付き遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴に因りて減少したるときは受遺者は其の減少の割合に応じて其の負担したる義務を免る。
但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。








  第4節 遺言の執行








第1106条

  1.  遺言書の保管者は相続の開始を知りたる後遅滞なく之を裁判所に提出して其の検認を請求することを要す。
    遺言書の保管者なき場合に於いて相続人が遺言書を発見したる後亦同じ。

  2.  前項の規定は公正証書に依る遺言には之を適用せず。

  3.  封印ある遺言書は裁判所に於いて相続人又は其の代理人の立会を以てするにあらざれば之を開封することを得ず。



第1107条

 前条の規定に依りて遺言書を提出することを怠り、其の検認を経ずして遺言を執行し又は裁判所外に於いて其の開封を為したる者は200円以下の過料に処せらる。


第1108条

  1.  遺言者は遺言を以て1人又は数人の遺言執行者を指定し又は其の指定を第三者に委託することを得。

  2.  遺言執行者指定の委託を受けたる者は遅滞なく其の指定を為して之を相続人に通知することを要す。

  3.  遺言執行者指定の委託を受けたる者が其の委託を辞せんとするときは遅滞なく其の旨を相続人に通知することを要す。



第1109条

 遺言執行者が就職を承諾したるときは直ちに其の任務を行うことを要す。


第1110条

 相続人其の他の利害関係人は相当の期間を定め其の期間内に就職を承諾するや否やを確答すべき旨を遺言執行者に催告することを得。
若し遺言執行者が其の期間内に相続人に対して確答を為さざるときは就職を承諾したるものと看倣す。


第1111条

 無能力者及び破産者は遺言執行者たることを得ず。


第1112条

  1.  遺言執行者なきとき又は之なきに至りたるときは裁判所は利害関係人の請求に因りて之を選任することを得。

  2.  前項の規定に依りて選任したる遺言執行者は正当の理由あるにあらざれば就職を拒むことを得ず。



第1113条

  1.  遺言執行者は遅滞なく相続財産の目録を調製して之を相続人に交付することを要す。

  2.  遺言執行者は相続人の請求あるときは其の立会を以て財産目録を調製し又は公証人をして之を調製せしむることを要す。



第1114条

  1.  遺言執行者は相続財産の管理其の他遺言の執行に必要なる一切の行為を為す権利義務を有す。

  2.  第644条ないし第647条及び第650条の規定は遺言執行者に之を準用す。



第1115条

 遺言執行者ある場合に於いて相続人は相続財産を処分し其の他遺言の執行を妨ぐべき行為を為すことを得ず。


第1116条

 前3項の規定は遺言が特定財産に関する場合に於いては其の財産に付てのみ之を適用す。


第1117条

 遺言執行者は之を相続人の代理人と看倣す。


第1118条

  1.  遺言執行者は已むことを得ざる事由あるにあらざれば第三者をして其の任務を行わしむることを得ず。
    但し、遺言者が其の遺言に反対の意思を表示したるときは此の限りに在らず。

  2.  遺言執行者が前項但書の規定に依り第三者をして其の任務を行わしむる場合に於いては相続人に対し第105条に定めたる責任を負う。



第1119条

  1.  数人の遺言執行者ある場合に於いては其の任務の執行は過半数を以て之を決す。
    但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。

  2.  各遺言執行者は前項の規定に拘わらず保存行為を為すことを得。



第1120条

  1.  遺言執行者は遺言に報酬を定めたるときに限り之を受くることを得。

  2.  裁判所に於いて遺言執行者を選任したるときは裁判所は事情に依り其の報酬を定むることを得。

  3.  遺言執行者が報酬を受くべき場合に於いては第648条第2項及び第3項の規定を準用す。



第1121条

  1.  遺言執行者が其の任務を怠りたるとき其の他正当の事由あるときは利害関係人は其の解任を裁判所に請求することを得。

  2.  遺言執行者は正当の事由あるときは就職の後と雖も其の任務を辞することを得。



第1122条

 第654条及び第655条の規定は遺言執行者の任務が終了したる場合に之を準用す。


第1123条

 遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とす。
但し、之に因りて遺留分を減ずることを得ず。








  第5節 遺言の取消








第1124条

 遺言者は何時にても遺言の方式に従いて其の遺言の全部又は一部を取消すことを得。


第1125条

  1.  前の遺言と後の遺言と抵触するときは其の抵触する部分に付ては後の遺言を以て前の遺言を取消したるものと看倣す。

  2.  前項の規定は遺言と遺言後の生前処分其の他の法律行為と抵触する場合に之を準用す。



第1126条

 遺言者が故意に遺言書を毀滅したるときは毀滅したる部分に付ては遺言を取消したるものと看倣す。
遺言者が故意に遺贈の目的物を毀滅したるとき亦同じ。


第1127条

 前3条の規定に依りて取消されたる遺言は其の取消の行為が取消され又は効力を生ぜざるに至りたるときと雖も其の効力を回復せず。
但し、其の行為が詐欺又は強迫に因る場合は此の限りに在らず。


第1128条

 遺言者は其の遺言の取消権を放棄することを得ず。


第1129条

 負担付遺贈を受けたる者が其の負担したる義務を履行せざるときは相続人は相当の期間を定めて其の履行を催告し若し其の期間内に履行なきときは遺言の取消を裁判所に請求することを得。








 第7章 遺留分








第1130条

  1.  法定家督相続人たる直系卑属は遺留分として被相続人の財産の半額を受く。

  2.  此の他の家督相続人は遺留分として被相続人の財産の3分の1を受く。



第1131条

  1.  遺産相続人たる直系卑属は遺留分として被相続人の財産の半額を受く。

  2.  遺産相続人たる配偶者又は直系尊属は遺留分として被相続人の財産の3分の1を受く。



第1132条

  1.  遺留分は被相続人が相続開始の時に於いて有せし財産の価額に其の贈与したる財産の価額を加え其の中より債務の全額を控除して之を算定す。

  2.  条件付権利又は存続期間の不確定なる権利は裁判所に於いて選定したる鑑定人の評価に従い其の価格を定む。

  3.  家督相続の特権に属する権利は遺留分の算定に関しては其の価額を算入せず。



第1133条

 贈与は相続開始前1年間に為したるものに限り前条の規定に依りて其の価額を算入す。
1年前に為したるものと雖も当事者双方が遺留分権利者に損害を加ふることを知りて之を為したるとき亦同じ。


第1134条

 遺留分権利者及び其の承継人は遺留分を保全するに必要なる限度に於いて遺贈及び前条に掲げたる贈与の減殺を請求することを得。


第1135条

 条件付権利又は存続期間の不確定なる権利を以て贈与又は遺贈の目的と為したる場合に於いて其の贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは遺留分権利者は第1032条第2項の規定に依りて定めたる価格に従い直ちに其の残部の価額を受贈者又は受遺者に給付することを要す。


第1136条

 贈与は遺贈を減殺したる後にあらざれば之を減殺することを得ず。


第1137条

 遺贈は其の目的の価額の割合に応じて之を減殺す。
但し、遺言者が其の遺言に別段の意思を表示したるときは其の意思に従う。


第1138条

 贈与の減殺は後の贈与より始め順次に前の贈与に及ぶ。


第1139条

 受贈者は其の返還すべき財産の外尚ほ減殺の請求ありたる日以後の果実を返還することを要す。


第1140条

 減殺を受くべき受贈者の無資力に因りて生じたる損失は遺留分権利者の負担に帰す。


第1141条

 負担付贈与は其の目的の価額中より負担の価額を控除したるものに付き其の減殺を請求することを得。


第1142条

 不相当の対価を以て為したる有償行為は当事者双方が遺留分権利者に損害を加ふることを知りて為したるものに限り之を贈与と看倣す。
此の場合に於いて遺留分権利者が其の減殺を請求するときは其の対価を償還することを要す。


第1143条

  1.  減殺を受くべき受贈者が贈与の目的を他人に譲渡したるときは遺留分権利者に其の価額を弁償することを要す。
    但し、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加ふることを知りたるときは遺留分権利者は之に対しても減殺を請求することを得。

  2.  前項の規定は受贈者が贈与の目的の上に権利を設定したる場合に之を準用す。



第1144条

  1.  受贈者及び受遺者は減殺を受くべき限度に於いて贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免るることを得。

  2.  前項の規定は前条第1項但書の場合に之を準用す。



第1145条

 減殺の請求権は遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈ありたることを知りたる時より1年間之を行わざるときは時効に因りて消滅す。
相続開始の時より10年を経過したるとき亦同じ。


第1146条

 第995条、第1004条、第1005条、第1007条及び第1008条の規定は遺留分に之を準用す。









付則 (明治35年法律第37号付則)

 本法施行前に分家を為したる者の本家に在る直系卑属が意思能力を有せざるときは法定代理人之に代わり民法第737条第1項の規定に依りて分家の家族と為る手続を為すことを得。

 本法施行前に分家を為したる者の直系卑属にして民法第737条の規定に依り分家の家族と為りたる者に付ては同法第972条の規定を適用せず。
但し、第三者が既に取得したる権利を害することを得ず。







付則 (昭和17年法律第7号付則)


第1条

 本法施行の期日は勅令を以て之を定む(昭和17年勅令第93号を以て昭和17年3月1日より施行)。


第2条

 第835条の改正規定は父または母が本法施行前に死亡したる場合にも之を適用す。


第3条

 第974条第2項及第995条第2項の改正規定は相続人たるべき者が本法施行前に死亡し又は相続権を失いたる場合にも亦之を適用す。
但し、本法施行前相続が開始したる場合は此の限りに在らず。