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平成17(行ウ)137等  

手数料納付義務不存在確認請求事件

 平成19年10月18日  大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/480/036480_hanrei.pdf

平成19(行コ)123  

手数料納付義務不存在確認,登記事項証明書交付拒否処分取消等請求控訴事件

 平成21年4月14日  大阪高等裁判所  その他
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/128/038128_hanrei.pdf



主 文

  1.  別紙原告目録記載の原告番号1から10までの請求(1),同番号11から21までの請求(2)ア及び同番号22から28までの請求(3)アの各請求をいずれも棄却する。
  2.  同番号11から21までの請求(2)イ及び同番号22から28までの請求(3)イの各訴えを却下する。
  3.  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由


第1 当事者の求めた裁判


1 請求

(1) 平成17年(行ウ)第137号事件

 別紙原告目録記載の原告番号1から10までの原告らの被告に対する別紙物件目録記載の土地についての登記事項証明書交付手数料の登記印紙500円分の納付義務が存在しないことを確認する。

(2) 平成17年(行ウ)第220号及び平成18年(行ウ)第19号事件

  1.  別紙原告目録記載の原告番号11から21までの原告らに対し,大阪法務局西出張所登記官P1がした別紙処分一覧表1から11まで記載の別紙物件目録記載の土地に対する登記事項証明書交付拒否処分をそれぞれ取り消す。
  2.  大阪法務局北出張所登記官は,同番号11から21までの原告らに対し,別紙物件目録記載の土地に対する登記事項証明書を500円分の登記印紙を貼付した登記事項証明書交付申請書と引換えに交付せよ。

(3) 平成18年(行ウ)107号事件

  1.  同番号22から28までの原告らに対し,大阪法務局北出張所登記官P2がした別紙処分一覧表12から18まで記載の別紙物件目録記載の土地に対する登記事項証明書交付拒否処分をそれぞれ取り消す。
  2.  大阪法務局北出張所登記官は,同番号22から28までの原告らに対し,別紙物件目録記載の土地に対する登記事項証明書を500円分の登記印紙を貼付した登記事項証明書交付申請書と引換えに交付せよ。

2 本案前の答弁

 上記(2)イ,(3)イの訴えを却下する。

3 本案の答弁

 原告らの請求をいずれも棄却する。

第2 事案の概要

  •  平成17年(行ウ)第137号事件は,登記事項証明書の交付手数料1000円のうち500円を支払い,登記事項証明書の交付を受けた原告らが,被告に対し,上記手数料を1000円と定める登記手数料令2条1項は,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法,無効であると主張して,上記手数料の未払部分500円の納付義務の存在しないことの確認を求める確認訴訟である。
    手数料 1000円
    払った分 500円
    未払い分 500円

  •  平成17年(行ウ)第220号,平成18年(行ウ)第19号,同年(行ウ)第107号事件は,原告らが,不動産登記法119条1項に基づき,500円分の登記印紙とともに登記事項証明書の交付申請をしたところ,大阪法務局西出張所(平成18年2月6日に大阪法務局北出張所に統合。以下同じ。)登記官又は同北出張所登記官がその交付を拒否する処分をしたことから,原告らが,登記手数料令2条1項は,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法,無効であり,上記交付拒否処分も違法であると主張して,上記交付拒否処分の取消し及び大阪法務局北出張所登記官が,原告らに対し,500円分の登記印紙を貼付した登記事項証明書交付申請書と引換えに登記事項証明書を交付するように義務付けることを求める抗告訴訟である。

1 法令の定め

不動産登記法119条1項は,
「何人も,登記官に対し,手数料を納付して,登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面の交付を請求することができる」
とし,同条3項は,
その「手数料の額は,物価の状況,登記事項証明書の交付に要する実費その他一切の事情を考慮して政令で定める」
と規定し,これを受けて,登記手数料令2条1項(同項は,以下の限度では,平成17年政令294号により実質的な改正はされていない。)は,
登記事項証明書又は登記簿の謄本若しくは抄本の交付についての手数料(以下「登記手数料」という。以下同じ。)は,1通につき1000円とする
と規定している。

2 争いのない事実等

(1) 平成17年(行ウ)第137事件について

  1.  原告P3,同P4,同P5,同P6,同P7及び同P8は,平成17年7月28日に, 同P9,同P10,同株式会社P11及び同P12は,同年8月1日に, 大阪法務局西出張所登記官に対し,別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)の登記事項証明書の交付を請求する旨の申請書をそれぞれ送付した(争いのない事実)。
  2.  上記アの各申請書には,500円の登記印紙のみが貼付されていた(争いのない事実)。
  3.  大阪法務局西出張所登記官P1は, 同年7月29日に原告P3,同P4,同P5,同P6,同P7及び同P8に対し, 同年8月2日に同P9,同P10,同株式会社P11及び同P12に対し, 上記アの各申請に係る登記事項証明書及び登記事項証明書交付手数料の不足分500円の支払いを求める通知書をそれぞれ発送した(争いのない事実)。
  4.  上記アの原告らは,平成17年8月26日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

(2) 平成17年(行ウ)第220号事件について

  1.  原告P13は,同年10月21日に, 原告P14は,同年11月16日に, 原告P15及び同P16は,同月17日に, 原告P17及び同P18は,同月18日に, 大阪法務局西出張所登記官に対し,別紙物件目録記載の土地の登記事項証明書の交付を請求する旨の申請書をそれぞれ送付した(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
  2.  上記アの各申請書には,500円の登記印紙のみが貼付されていた(争いのない事実)。
  3.  大阪法務局西出張所登記官P1は, 同年10月24日に原告P13に対し, 同年11月16日に原告P14に対し, 同月17日に原告P15及び同P16に対し, 同月18日に原告P17及び同P18に対し, 上記各申請書及び登記事項証明書交付手数料の不足分500円の追加貼付を求めるお知らせ文をそれぞれ送付し,上記各申請に係る登記事項証明書の交付を拒否する処分をそれぞれした(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
  4.  上記アの原告らは,同年11月29日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

(3) 平成18年(行ウ)第19号事件について

  1.  原告P19及び同P20は,同月25日に, 原告P21及び同P22は,同月28日に, 原告P23は,同月29日に, 大阪法務局西出張所登記官に対し,本件土地の登記事項証明書の交付を請求する旨の申請書をそれぞれ送付した(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
  2.  上記アの各申請書には,500円の登記印紙のみが貼付されていた(争いのない事実)。
  3.  大阪法務局西出張所登記官P1は, 同月25日に原告P19及び同P20に対し, 同月29日に原告P21,同P22及び同P23に対し, 上記各申請書及び登記事項証明書交付手数料の不足分500円の追加貼付を求めるお知らせ文をそれぞれ送付し,上記各申請に係る登記事項証明書の交付を拒否する処分をそれぞれした(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
  4.  上記アの原告らは,平成18年2月7日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

(4) 平成18年(行ウ)第107号事件

  1.  原告P24及び同P25は,平成18年4月17日に, 原告P26及び同P27は,同月25日に, 原告P28及び同P29は,同月26日に, 原告P30は,同年5月1日に, 大阪法務局北出張所登記官に対し,別紙物件目録記載の土地の登記事項証明書の交付を請求する旨の申請書をそれぞれ送付した(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
  2.  上記アの各申請書には,500円の登記印紙のみが貼付されていた(争いのない事実)。
  3.  大阪法務局北出張所登記官P2は, 同年4月24日に原告P24及び同P25に対し, 同月25日に原告P26及び同P27に対し, 同月26日に原告P28及び同P29に対し, 同年5月2日に原告P30に対し, 上記各申請書及び登記事項証明書交付手数料の額及び所定の手数料が不足していたことを知らせる案内文をそれぞれ送付し,上記各申請に係る登記事項証明書の交付を拒否する処分をそれぞれした(争いのない事実,弁論の全趣旨)。
  4.  上記アの原告らは,同年6月28日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

(5) 内閣は,平成10年4月1日,登記手数料を800円から1000円にする登記手数料令の一部改正を行った

(平成10年政令297号。以下,この改正によって定められた登記手数料令2条1項を「本件政令」ということがある。また,本件政令によって定められた登記手数料を「本件手数料」という。) (顕著な事実)。

3 争点

(1) 登記手数料令2条1項が財政法3条に違反するか否か。

(2) 本件政令が不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法であるか否か。

(3)  本件政令が憲法84条に反し,違憲であるか否か。


4 争点に対する当事者の主張

(1) 争点(1)について

[原告らの主張]
 登記手数料令2条1項は,国の独占事業である登記制度の手数料を定めるものでありながら,法律又は国会の議決に基づかずに定められたものである。
また,同項は,不動産登記法119条3項に基づいているとしても,「その他一切の事情」として,包括的白紙委任を受ける形で政令によって制定されていることからすれば,
「租税を除く外,国が国権に基づいて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金については,すべて法律又は国会の議決に基づいて定めなければならない」
とする財政法3条に違反し,無効である

[被告の主張]
 法律により,特定の事項について政令に委任することは,その合理的必要性があり,政令の内容を制約すべき適切な限界が定められていれば認められるべきであり,財政法3条も,かかる委任立法まで排除するものではない。
不動産登記法119条3項は,手数料の制定を政令に委任しているが,その委任には合理的必要性が認められ,また,同項は,適切な限界も定めているといえる。
したがって,登記手数料令2条1項は,財政法3条に反しない。

(2) 争点(2)について

[原告らの主張]
ア 不動産登記法119条3項は,登記手数料の額につき
「物価の状況,登記事項証明書の交付に要する実費その他一切の事情を考慮して政令で定める」
としており,同項は,受益者負担の原則から登記事項証明書の交付という役務に対する報償あるいは反対給付たる手数料としての性質に適合する範囲で登記手数料を定めるよう政令に委任したものである。
そして,登記手数料は,国家が登記事務を行うことにより利益をあげることが予定されているわけではないこと,同項は,「物価の状況」,「実費」を特に例示していることからすれば,登記手数料の制定についての内閣の裁量は,「その他一切の事情を考慮」したとしても実費弁償の範囲を超えるものではなく,その範囲に限られると解すべきであり,このように解することが受益者負担の原則にも合致する。
 したがって,内閣が,実費弁償の範囲を超えて,算入してはならない費用を算入したり,算入されるべき収入を算入せずに登記手数料令を改定した場合には,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法であるというべきである。
また,登記制度が国民の経済生活に不可欠であり,不動産の権利義務関係の公証という重要な任務に関わるものであることからすれば,本件手数料の積算根拠となる所要経費等を10パーセント以上過大に見積もったような場合にも裁量の逸脱として,登記手数料令2条1項は違法になるというべきである。
 これを前提に以下検討する。

 登記事務のコンピュータ化経費について
 そもそも,登記制度は国の制度であるから,登記事務のコンピュータ化のための経費は,登記事務に関する費用ではなく,登記制度そのものに関する設備経費であって,その経費は,本来,手数料ではなく,一般財源から賄うべきである。
 さらに,登記事務のコンピュータ化によって利益を受けるのは,登記審査等事務(いわゆる甲号事務。以下『甲号事務』という。)及び登記情報管理事務(いわゆる乙号事務。以下『乙号事務』という。 )を併せた登記制度の利用者全体であり,特に中心は甲号事務の利用者である。
にもかかわらず,登記特別会計においては,コンピュータ化の経費全額を,登記事項証明書又は登記簿の謄本若しくは抄本の交付等を受ける乙号事務の利用者に負担させることとされている。
 しかしながら,不動産登記法の目的が一次的には不動産の権利関係等の公示にあり,その閲覧は二次的なものにとどまる。
また,登記特別会計における人件費に占める乙号事務の割合は少ない。
これらを考慮すると,受益者負担の原則に照らし,著しく不当であり,違法である。
すなわち,所要経費 (所要経費には,人件費のほかに,システム経費,物件費及び施設費等がある。) における甲号事務と乙号事務とに要する経費は,登記特別会計における人件費における甲号事務と乙号事務とに必要なものの割合 (人件費は,被控訴人の原審第2準備書面添付の表によれば,平成10年度では230億円余であるが,乙13の繰入財源ものの人件費を拾って合計すると680億円となり,これと特定財源ものとの合計は910億円程度であるから,本件政令の根拠となった所要経費としての人件費は,登記特別会計における全人件費のうち約25%程度であることが分かる。) から推定することが可能であり,その推定によれば,所要経費における甲号事務と乙号事務との割合は約3対1であるべきであり,これを所要経費全体に及ぼして算定すれば,本件手数料が1000円ではなくせいぜいその半額の500円程度となるべきことは明らかである。

登記特別会計における全人件費
910億円程度
甲号事務
???
乙号事務
230億円余

 このように,乙号事務に関する手数料によってコンピュータ化の経費をすべて賄うことを前提とする本件政令は,不動産登記法119条3項により委任された裁量の範囲を超え,違法である。

 歳入超過について
 登記特別会計は,印紙をもつてする歳入金納付に関する法律3条3項の規定による納付金及び不動産登記法119条4項ただし書きの規定による納付金等をもってその歳入とし,事務取扱費,施設費等をもってその歳出とするものとされている(登記特別会計法3条)ところ,登記特別会計の歳入額と歳出額とを比較すると登記手数料の額が500円であった平成2年には歳入超過の状態にあり,それが継続していたことからすれば,「登記事項証明書の交付に要する実費」(不動産登記法119条3項)を賄うには500円で十分であったというべきであり,登記手数料を値上げする必要はなく,500円を超えて手数料額を定めることは,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法である。

 公用分の負担について
 登記手数料令(平成18年政令372号による改正前のもの。以下同じ。)7条(現登記手数料令19条)は,国又は地方公共団体(以下「国等」という。)の職員が登記事項証明書を職務上請求(以下「公用請求」という。)する場合の手数料の納付を免除しているが,これは不動産登記法119条1項に違反し,また,かかる免除を認めた委任規定も法律上存在しないから,財政法3条にも違反し,無効である。このように違法無効に免除された公用請求分に係る登記事項証明書発行の経費は,公用請求以外の一般の利用者の負担に帰せられている。
このような費用は,役務の対価としての実費弁償の範囲を超える負担であり,公用請求の手数料部分を一般利用者に転嫁することは,受益者負担の原則に反する。
そして,公用請求の手数料部分を除くと登記手数料は,878円となり,登記手数料の12.2パーセントもの割合を占めていることに照らせば,本件政令は,不動産登記法119条3項による委任の範囲を逸脱し,違法無効である。
登記手数料令(平成18年政令372号による改正前のもの。以下同じ。)7条(現登記手数料令19条)は,国又は地方公共団体(以下『国等』という。)の職員が登記事項証明書を職務上請求(以下『公用請求』という。)する場合の手数料の納付を免除しているが,これは
『何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(以下『登記事項証明書』という。)の交付を請求することができる。』
として,請求人が誰であっても手数料を納付しなければならないことを定めた不動産登記法119条1項に違反し,また,かかる免除を認めた委任規定も法律上存在しないから,財政法3条にも違反し,無効である。 このように違法無効に免除された公用請求分に係る登記事項証明書発行の経費は,公用請求以外の一般の利用者の負担に帰せられている。
しかも,平成8年度実績において,登記簿謄抄本交付,閲覧,証明の各請求について公用請求分が占める割合は,それぞれ12.4%,64.6%,22.7%と極めて高率に及んでいる。

交付 閲覧 証明
12.4% 64.6% 22.7%

したがって,このような費用は,役務の対価としての実費弁償の範囲を超える負担であり,公用請求の手数料部分を一般利用者に転嫁することは,受益者負担の原則に反する。
そして,公用請求の手数料部分を除くと登記手数料は,878円となり,公用請求の手数料部分が登記手数料(1000円)の12.2パーセントもの割合を占めていることに照らせば,本件政令は,不動産登記法119条3項による委任の範囲を逸脱し,違法無効である。

 登記手数料額の算定根拠の不正確性
(ア) 所要経費の過大計上
  1.  本件手数料の算定根拠たる数値は,不明確,不透明であり,過大に見積もられている可能性がある。
  2.  所要経費の過大計上は,以下の事実から裏付けられる。
    1.  システム経費について
       被告の主張によれば,「所要経費」にいう「システム経費」とは,「登記情報提供システム実施経費」の小計であり,「登記情報提供システム実施経費」のほどんどが「登記情報処理業務庁費」と「電子計算機等借料」で占められている。
      そして,平成10年度から平成12年度までの被告が見積もった「システム経費」は, 平成10年が約660億円, 平成11年が約720億円, 平成12年が約780億円の 合計約2160億円である。
      これに対し,平成10年度から平成12年度までの「システム経費」を構成する「登記情報処理業務庁費」及び「電子計算機等借料」の合計額の決算額は, 平成10年が約620億円, 平成11年が約630億円, 平成12年が約582億円の 合計約1832億円である。
      年度 予算 決算 割合
      平成10年 660億円 620億円 94%
      平成11年 720億円 630億円 88%
      平成12年 780億円 582億円 75%
      合計 2160億円 1832億円 85%

       そうすると,平成10年度から平成12年度までの実績と被告の見積もった「システム経費」との差額は,約328億円にもなり,当初見積りの85パーセント以下になっており,経費が過大に見積もられていたことは明らかであり,登記業務のコンピュータ化をする以外の費用が混入しているなど本来的に不動産登記の謄抄本の証明,閲覧,謄写の利用者に負担させるべきでない費用までも組み入れて費用を算定していた可能性がある。
    2.  人件費について
       コンピュータ化が進み,省力化され,登記事項証明書の申請件数や登記簿謄抄本等の交付申請件数が減少傾向にあり,法務局の数が減少されているにもかかわらず,人件費が減少していないことからすれば,人件費についての被告の見積りが不合理であった可能性若しくは不必要な費用を見積もっている可能性があることは否定できない。
    3.  剰余金の存在について
       登記特別会計における剰余金の額は, 平成10年度が約109億円, 平成11年度が約65億円, 平成12年度が約99億5000万円であり, 3年間で99億5000万円の剰余金が発生しており,毎年33億円以上の手数料の過大計上があったというべきである。
    4.  財団法人P31協会の委託費について法務省は,平成10年から,コンピュータ化を推進するために,財団法人P31協会(以下「P31協会」という。)に業務委託をし,同協会は民間会社へ再委託した。
      法務省は,上記委託のために多額の経費を費消している。
      しかし,法務省が直接民間に委託すれば,100億円ないし200億円安い費用で済んだ可能性があり,不必要な委託費を過大に計上している可能性があるというべきである。

(イ) 登記情報提供システムについて
 登記情報提供システムは,利用者が自宅や事務所等法務局外にいながらにしてあらかじめ登録した自己のパソコンから登記所のコンピュータシステムに接続し,登記情報を閲覧することのできる制度であり,登記制度の存在とそのコンピュータ化により実現した制度であり,その利用者が登記制度の受益者というべきである。


そうすると,登記情報提供システムは,コンピュータ化を開始する際からその運用が予想されていたのであるから,内閣は,受益者負担の原則により,登記情報提供システムの運用益の収支を考慮した上で,登記手数料の額を算出すべきである。
そうであるにもかかわらず,内閣は,本件政令の制定に当たり,登記情報提供システムの収支を考慮せずに本件手数料を算出しており,これは登記情報提供システム利用者の負担すべき費用を登記事項証明書の交付を受ける者に加重して負担させているものであり,受益者負担の原則に反するというべきである。
 この点,被告は,登記情報提供システムの収入は実費手数料を除き登記特別会計の歳入とされているから受益者負担の原則に反しないと主張するが,原告らは,この収入が登記特別会計の歳入とされたか否かはともかくとして,それを本件手数料の算定の基礎としなかったことをもって受益者負担の原則に反すると主張しているのであるから,被告の反論は失当である。

(ウ) 被告の主張に対する反論
 被告は,原告らの主張が,国会の承認決議を経た予算の歳出額の合理性を争うものであり,予算額が実際に支払われた金額よりも過大であったとしても,これは民主制の過程による是正が予定されており,その予算に基づき登記手数料を算定した本件政令の適法性を否定することはできないから,原告らの主張は,失当であると主張する。
 しかし,原告らが主張しているのは,本件手数料が予算を基礎に算出されたとしても,その算出過程において,不動産登記法119条3項の趣旨からして,算出の基礎に算入すべき歳入項目を算入していないとか,算出すべきでない算出項目を算入している結果,本件政令が違法無効となることを指摘しているのであり,予算の有効,無効を主張しているのでないから,被告の上記主張は,失当である。

 予備的主張について
 登記制度の運用経費は,受益者負担の原則により,その利用者に負担させることが適当であるところ,登記制度の運用によって過大な余剰が出ており,かつそのことを被告も了知していたのであれば,その余剰を解消し,利用者の負担を合理的に軽減しなければならないというべきである。
そして,内閣は,3年に一度登記手数料の見直しを行っていることからすれば,その見直しの際に,これを行わない場合には,裁量権の逸脱,濫用というべきである。
そうすると,内閣は,
① 約99億円もの剰余金が生じていることが判明した平成12年度末の見直し段階において,若しくは,
② 約122億円もの剰余金が生じていることが判明した平成16年度末の見直し段階において,
本件政令を改定して,その額を減額すべきであったにもかかわらず,これをせず,しかも公用請求につき手数料を免じ続けていたのであるから,裁量権の逸脱,濫用であり,本件政令は無効というべきである。

[被告の主張]
ア 不動産登記法119条3項は,登記手数料の額について,「実費」のみならず,「物価の状況」,「その他一切の事情」を考慮して定めることを規定している。
そして,上記手数料額の決定が専門的,技術的事項に関するものであることからすれば,内閣は,その決定において,法律の委任の趣旨に反しない限り,広く裁量を有するというべきであり,推計所要経費と実際の所要経費との比較のみにより,上記手数料額の決定に関する内閣の裁量の逸脱ないし濫用の有無を判断することは失当というべきである。

イ 登記事務のコンピュータ化経費について
 登記事務に要する経費のうち,甲号事務に要する経費と乙号事務に要する経費は,観念的には区分され得るとしても,不動産登記法は,1条に同法の目的を定め,その目的を実現するために,甲号事務と乙号事務の手続,制度を定めており,両者がいずれも有効に機能することにより,不可分一体として同法の目的が実現される。
また,乙号事務は甲号事務の処理が適切になされていることが不可欠の前提となっており,両事務は密接不可分であることから実態的には区分し難いのであり,このように両事務に要する経費を区分し難いことは,両事務に共通する一般管理運営に要する経費が存在することに端的に現れている。
したがって,控訴人らの主張は,両事務に要する経費を区分できるとする前提自体が誤っている。
 また,登記特別会計制度において登記事務のコンピュータ化への移行経費を手数料により負担させることとしたのは,登記事務のコンピュータ化が実現した場合,その効果を第一次的に享受するのは登記事項証明書又は登記簿の謄本若しくは抄本の交付を受ける者であると考えられるため,登記事務のコンピュータ化に要する経費全体を一体的なものとして,その効果を第一次的に享受する者である乙号事務の利用者に負担させることとしたからである。
このような考え方からしても,コンピュータ化への移行経費を手数料で賄うことに合理性が認められることは明らかである。
 以上のとおり,甲号事務に要する経費と乙号事務に要する経費を明確に区別できることを前提に,乙号事務に要する経費のみを手数料に転嫁させるべきであるとする控訴人らの主張は,その前提からして誤っており,失当である。

  歳入超過について
 上記のとおり,不動産登記法119条3項は,登記事項証明書等の交付手数料の額について「実費」のみならず,「物価の状況」,「その他一切の事情」を考慮して定めるとしているところ,原告らの主張は,歳入が超過していれば,それだけで登記手数料の値上げが一切許されないとするものにほかならず,その前提を誤っている。
また,平成10年4月1日付けの登記手数料令2条1項の改正は,将来の登記事務のコンピュータ化のための経費を見込んだ上,合理的な算定根拠に基づいて手数料を算定しており,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱するものではない。

 公用請求分の負担について
 国等による登記情報の利用が公益性を有し,かつ官公庁が相互に協力関係にあることに鑑みれば,登記手数料の額を定めるに当たり公用請求にかかる経費を一定限度で考慮の対象に含めることも許されると解すべきである。
そして,経費全体に占める公用請求分の経費の割合も大きくないことからすれば,登記手数料令7条は,委任の範囲を超えるものではない。
したがって,公用請求分を考慮せずに登記手数料を算定することも不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱するものではない。

 登記手数料額の算定根拠の合理性について
  1.  所要経費の算定根拠の合理性について
    1.  本件手数料の積算根拠となる各所要経費は,平成10年度予算額を基礎として,事業計画上各年度の対象庁数,コンピュータ及びその周辺機器等の台数並びに人員等を想定できる限りにおいて予定数値に置き換えて算出したものであり,経費が過大に見積もられたものではない。
    2.  そして,本件手数料は,平成10年度予算額を基礎として見積もられた所要経費に基づき算定されたものであり,その算定根拠とされている平成10年度登記特別会計予算は,国会の承認決議を経ていることからすれば,原告らの主張する所要経費等が過大であったとの主張は,国会の承認決議を経た予算の効力を争うものにほかならない。
      そして,適正な予算額は,その性質上,高度な政治的判断を要するものであり,民主制の過程において判断されるべき事項であるところ,本件政令は,財政民主主義に裏打ちされた予算額を根拠として登記手数料を算定したのであるから,その予算額の適否を争う原告らの主張は,それ自体失当である。
       また,当該歳出目的が予算額より少額の歳出で達成できたかもしれない可能性があることのみを根拠として国会の承認決議を経た予算の効力を否定することができないのはいうまでもなく,原告らの主張はそれ自体失当である。

 登記情報提供システムの利用料について
  1.  電気通信回線による登記情報の提供に関する法律の施行は,平成12年4月1日であり,登記情報提供サービスの開始は同年9月25日であることからすれば,本件政令の制定時に登記情報提供システムの手数料収入を考慮しなかったとしても本件政令の適法性に影響を及ぼさないことは明らかであり,原告らの主張はそれ自体失当である。
  2.  また,現行の不動産登記の全部事項の情報提供利用料金は770円であり,うち710円は「登記手数料」として登記特別会計の歳入のうち「登記情報提供等手数料収入」として計上されており,不動産登記情報提供による収入は実費手数料60円を除き登記特別会計の歳入とされており,受益者負担の原則に反すると評価される余地はなく,原告らの主張は失当である。

    情報提供利用料金
    770円
    登記特別会計
    登記情報提供等手数料収入
    710円
    実費手数料
    60円


 予備的請求原因について
  1.  原告らは,内閣には本件政令を改正すべき作為義務があり,それを行わないことは,不動産登記法119条3項により被告に与えられた裁量権を逸脱,濫用するものであり,違法であると主張する。
    しかし,
    ① 原告らの主張から内閣が本件政令についていかなる改正を行う義務(作為義務)があるのか明らかにされていないこと,
    ② 本件政令を改正しない不作為が違法であることから直ちに本件政令が改正を待たずに無効となるとは解し難いこと
    からすれば,原告らの主張はそれ自体失当である。
  2.  また,この点をおくとしても,本件政令を改正するか否かの判断は,内閣の裁量に委ねられており,その不作為が違法となるのは,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られる。
    そうだとすれば,本件において,原告らの主張する平成12年度末及び平成16年度末に剰余金が存在したとの事実から,上記裁量権の濫用,逸脱があったとはいえない。
    加えて,
    平成12年度及び同16年度の登記特別会計の剰余金の額は,平成10年度より低額であること,
    当初平成16年度末の完了が予定されていたコンピュータ化作業は,その後,平成19年度末の完了に計画が変更されたため,平成16年度末当時には,上記完了に向けて作業経費を要することが予測されていたこと
    からすれば,上記剰余金が存在したとしても,直ちに本件政令を改正しなければならない作為義務が生じたとは解せず,その不作為が裁量権の逸脱,濫用には当たらない。

(3) 争点(3)について

[控訴人らの主張]
 そもそも,登記手数料は,登記事項証明書の交付という役務に対する報償あるいは反対給付たる手数料であって,国家が,その課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付である租税ではない。
そうだとすれば,その手数料という名目にかかわらず,登記手数料のうち実費弁償の範囲を超える部分は,役務提供に対する反対給付としての性格を喪失して実質的に租税に転化しているから,租税法律主義の適用を受けるというべきである。
 そして,前記引用に係る原判決(本判決による補正後のもの。以下同じ。)の「事実及び理由」中の第2の4(2)[控訴人らの主張]イ及びエのとおり,コンピュータ化への移行経費及び公用請求分の無料化にかかる費用が,登記手数料を財源として支出されていることは,実費弁償を超え,対価性を失わせていることを示すものである。
ところで,これらの費用の負担は,法律の根拠なく行われており,租税法律主義に反するものであって,本件政令は,憲法84条に違反し,無効である。


[被控訴人の主張]
 前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中第2の4(2)[被控訴人の主張]アのとおり,不動産登記法119条3項は,登記手数料の額について,『実費』のみならず,『物価の状況』,『その他一切の事情』を考慮して定めることを規定しており,内閣は,その決定において,法律の委任の趣旨に反しない限り,広く裁量を有するところ,登記事務のコンピュータ化への移行経費及び公用請求分の無料化にかかる費用を見込むことは,何ら本件根拠規定の委任の範囲を超えるものではない。
実費弁償分を超える分については租税法律主義の規律に服するとの控訴人らの主張は,独自の規範を立てて論じているに過ぎない。
 なお,登記特別会計法1条が規定する『登記に関する事務』とは,不動産登記法,商業登記法等の登記関係法令において取り扱うものと規定している登記事務とその付随業務をいうものと解され,その中にはコンピュータ化への移行に関する事務も当然含まれるのであるから,コンピュータ化への移行経費が,『登記に関する事務』に必要な費用に含まれることは明らかである。
そして,登記事務のコンピュータ化による登記事務の改善の効果を第一次的に享受するのは,乙号事務の利用者であるから,本件手数料が,登記事務のコンピュータ化にかかる経費や公用請求分の無料化にかかる費用を見込んで定められたことは,何ら役務の反対給付としての性質を逸脱するものではない。 」

第3 争点に対する判断

1 争点(1)について

 原告らは,登記手数料令2条1項は,財政法3条に違反し,無効であると主張するので,この点について検討する。
 財政法3条は,
「租税を除く外,国が国権に基づいて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金については,すべて法律又は国会の議決に基づいて定めなければならない」
と規定する。
同条の趣旨は,国が国権に基づいて収納する課徴金や国の独占事業に属する場合の事業料金等は,国民の生活に直接的な影響を与えることから,その決定を法律又は国会の議決に委ねることにより,財政民主主義の原則(憲法84条)を確認したものと解されるが,その趣旨が満たされる限り,法律又は国会の議決は一定の枠組みを定めるにとどめ,個別的,具体的な定めを政令に委任することも許容されると解される(憲法73条6号,内閣法11条参照)。
 そこで,不動産登記法119条3項が登記手数料の額の定めを政令(登記手数料令)に委任したことが,財政民主主義の原則又は財政法3条の趣旨を没却する白紙委任に渡るわたるものとして違法となるか否かを検討するに,同項が登記手数料の額の定めを政令に委任したのは,登記手数料の額の決定が専門的,技術的事項に関するものであるとともに,社会の諸事情の変化に迅速,的確に対応すべきことが要求される事項であることから,国会がすべて対応することは,技術的に困難であり,適切でないことを考慮したものであり,政令への委任には合理的必要性があるといえる。
また,同項は,政令への委任事項を登記手数料の額と特定した上で,その額を定めるに当たっての考慮要素として「物価の状況」及び「登記事項証明書の交付に要する実費」の他,「一切の事情」と定めたものであり,手数料の本質である役務の反対給付という性質を越えない範囲で,諸般の事情を考慮すべきことを規定した趣旨と解される(最高裁判所第一小法廷平成10年4月30日判決・訟務月報45巻5号1017号(乙6)参照)。
 以上からすれば,不動産登記法119条3項が登記手数料の額の定めを政令に委任したことは違法な白紙委任には当たらず,かかる委任を受けて定められた登記手数料令2条1項は,財政法3条に違反しないというべきである。
 よって,争点(1)に係る原告らの主張は理由がない。

2 争点(2)について

(1) 原告らは,本件政令が不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法であると主張するので,検討する。

 不動産登記法119条3項が登記手数料の額の定めを登記手数料令に委任した趣旨及び内容が,上記のとおりであることに照らせば,内閣は,手数料という役務の反対給付としての性質を逸脱しない範囲で諸般の事情を考慮して,登記手数料の額を決定する裁量権を有するというべきであり,かかる裁量権に逸脱,濫用があったといえる場合に限り,本件政令は,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,違法,無効になると解すべきである。
そして,このような内閣の裁量権に照らせば,裁判所の審理,判断は,内閣の判断が裁量権の行使としてなされたことを前提として,本件政令が施行された平成10年4月1日(以下「本件基準時」という。)において,手数料としての性質上,内閣が算定の基礎とした重要な数値の選択や算定方法に不合理な点があったか否かという観点から行われるべきである。
 以下,このような考え方に基づき,原告が主張する違法事由について検討する。

(2) 登記事務のコンピュータ化経費について

 控訴人らは,登記事務のコンピュータ化経費は,本来,一般財源から賄われるべきであり,さらに登記事務のコンピュータ化による受益者は,登記制度の利用者全体であるにもかかわらず,登記事務のコンピュータ化経費の全額を,乙号事務の利用者が負担する手数料で賄うことを前提とする本件政令は,受益者負担の原則に照らし,不当であって,本件政令は,不動産登記法119条3項により委任された裁量の範囲を超え,違法であると主張する。
 しかし,前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中第3の2(1)のとおり,内閣は,本件基準時において,手数料という役務の反対給付としての性質を逸脱しない範囲で諸般の事情を考慮して,登記手数料の額を決定する裁量権を有するというべきところ,登記事項証明書交付という本件手数料の役務提供の前提となる登記制度そのものに関する設備費用を含めて登記手数料を定めることは,所要経費に登記制度とは関係のない経費が含まれているなど特段の事情がない限り,同項の趣旨に反しないというべきである。
 そして,登記特別会計制度は,増加する登記事件に対する登記事務処理の憂慮すべき状況にかんがみ,早急にコンピュータの導入を図るなど登記事務処理体制の抜本的な改革を行い事務処理の円滑化と適正化を図る必要があり,これに要する経費は登記制度の利用者が負担する登記手数料で賄うこととするという政策判断のもと,登記関係手数料は登記関係経費に充てられることを明確にする必要があるという理由により,登記特別会計法が制定され創設されたものである(甲46)。
この登記特別会計制度創設の立法趣旨に従って,登記手数料を定めるに当たって,登記事務のコンピュータ化移行経費の負担を考慮に入れることは,不動産登記法119条3項の『その他一切の事情』に含まれるというべきであり,その結果,コンピュータ化移行経費が専ら乙号事務利用者の負担となるからといって,同項により委任された裁量の範囲を逸脱したというべき理由はない。  控訴人らは,甲号事務と乙号事務に要する各経費の割合を推定することが可能であるとして,独自の推計結果に基づいて本件手数料の額が不当であると主張する。
 しかし,不動産登記法の目的は,同法1条に定められたとおり,「国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円滑に資すること」にあり,不動産の権利を公示することは,この目的を実現するための必須の手段である。
同法は,その目的実現のために,自らの権利等を登記する甲号事務に関する制度,手続とともに登記情報の公開を請求する乙号事務に関する制度,手続をも定めており,両者がいずれも有効に機能することにより初めて同法の目的が達成できるということができる。
乙号事務が適切に処理されるためには,甲号事務の処理が適切に行われていることが不可欠の前提となっており,両事務は密接不可分であって区分し難いというべきであり,乙号事務だけが甲号事務と切り離されて存在し得るものではない。
そして,登記事務のコンピュータ化移行経費は,登記制度そのものに関する設備費用であるところ,登記事務のコンピュータ化が実現した場合,現実にその効果を真っ先に享受するのは乙号事務の利用者であると考えられる。
したがって,甲号事務と乙号事務に要する各経費を強いて区分して乙号事務の利用者が負担すべき額を観念することなく,登記事務のコンピュータ化移行経費を専ら乙号利用者に負担させても,不動産登記法119条3項の趣旨に反しないというべきである。
 結局のところ,控訴人らの主張は,登記事務のコンピュータ化を推進する政策を採用したことの当否,あるいは,その費用を一般財源から支出せず,登記手数料によって賄おうとする登記特別会計法の制定及びその内容を問題とするものであり,これらの点に関する内閣の政策の選択が不当であると非難することに帰するところ,後記引用に係る原判決の『事実及び理由』中第3の2(5)のアないしエのとおり何ら違法性のない手続及び算定過程により本件手数料が算定されていることに照らしても,失当であるというほかはない。

(3) 歳入超過について

 原告らは,登記手数料の額が500円であった平成2年には決算上歳入超過の状態にあり,それが継続していたのであるから,本件手数料を値上げする必要はなく,本件政令よって本件手数料を1000円にしたことは,裁量権の逸脱,濫用であると主張する。
 しかし,
そもそも決算上歳入が歳出に不足することはないことからすれば,決算上の歳入超過の事実から,直ちに登記手数料を値上げする必要がなかったということはできず,原告らの主張は,その前提を誤っている。
加えて,
前記(第3の2(1))のとおり,内閣は,本件手数料の決定について裁量権を有し,本件手数料をいつ値上げするか否かの判断はその裁量に属するものというべきである以上,歳入超過の事実が認められれば,一切値上げが許されないことを前提とする原告らの上記主張は失当である。
特に,本件政令による登記手数料の値上げは,コンピュータ化経費の増大を見込んでされたものであるから(甲11,乙2,3),原告が主張する上記理由だけで内閣の決定に裁量権の逸脱,濫用があったことを基礎付けることができないことは明らかである。

(4) 公用請求分の負担について

 原告らは,国等の職員が登記事項証明書の交付を職務上請求する場合の手数料を無料とする登記手数料令7条は,不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱し,無効であり,本件手数料の算定に当たり,公用請求分を考慮しなかった本件政令は,受益者負担の原則に反し,違法であると主張する。
 しかし,登記手数料令7条は,官公庁の請求が公益性を帯びるものであり,官公庁が相互に協力関係にあることを考慮して定められたものと解されることに照らせば,公用請求分を無料とする同条の規定には合理性が認められ,これを違法,無効とする原告らの主張は理由がない。
そして,登記手数料の額を定めるに当たり上記公用請求分に係る経費を一定限度で考慮の対象に含めることも許されると解すべきである(前掲最高裁第一小法廷平成10年4月30日判決参照)ところ,証拠(乙11)及び弁論の全趣旨によれば,平成8年度実績において,登記簿謄抄本交付,閲覧,証明の各請求について公用請求分が占める割合は,それぞれ12.4%,64.6%,22.7%と相当程度の割合を占めることが認められるものの,コンピューター化のために必要な推計所用経費の内容が後記((4)ア(ア)b)のとおり,システム経費,人件費,物件費,施設整備費であり,その多くが請求件数に比例せず固定的にかかる費用であることに照らせば,公用請求に係る費用(公用請求の処理のために増加する費用)の上記推計所用経費全体に占める割合が大きいものでないことは自ずから明らかであるというべきである。

登記簿謄抄本交付 閲覧 証明
12.4% 64.6% 22.7%

そもそも前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中第3の2(1)のとおり,内閣は,本件手数料の決定について裁量権を有するところ,もともと公用請求分を無料とすることには合理性があるうえに,所要経費が請求件数に比例するものではないことをも考慮すれば,公用請求分の登記手数料を無料とすることは,内閣の裁量の範囲内に属するというべきである。
したがって,公用請求に係る費用も含めて所用経費を推計し,それを前提に登記手数料の金額を定めたとしても,手数料の本質である役務の反対給付という性質を超えるには至っていないというべきである。
 このように,公用請求分の手数料を無料とし,かつ,公用請求分に係る費用を考慮の対象に含めて本件手数料を算定したことについて,裁量権の逸脱,濫用があったとはいえないから,このことを理由に本件政令が不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱すると解することはできない。

(5) 登記手数料額の算定根拠の不明確性について

 原告らは,本件手数料の算定根拠の数値が不明確,不透明であり,過大に見積もられている可能性がある等の事情を裁量権の逸脱,濫用の根拠として主張するので,検討する。

ア 証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 内閣が本件政令において本件手数料を1000円と定めた計算方法等は,以下のとおりである(甲11,乙8,9,11~13,20,弁論の全趣旨)。
  1.  平成10年度から平成12年度までの3年間の推計所要経費の総額を平成10年度登記特別会計予算参考書額(乙13。以下「平成10年度予算参考書」という。)を基礎に積算して,約3710億円と算出し,同期間の推計事件総数を
    ① 謄抄本2億4700万通,
    ② 閲覧1億3500万通,
    ③ 証明1億700万通
    と各算定した上,謄抄本,閲覧,証明の各事務量の割合費(それぞれ67%,18%,15%とした。)に従って,請求1件あたりの手数料を算定し,
    謄抄本は1件当たり1000円,
    閲覧及び証明は各1件当たり500円
    と算定した。
    なお,平成10年度登記特別会計予算は,その後,同参考書とほぼ同様の内容で成立した。
  2.  上記推計所要経費の内訳について
    1.  上記平成10年度から平成12年度までの推計所要経費(システム経費,人件費,物件費,施設整備費)の金額の内訳は以下のとおりである。

      平成10年度 平成11年度 平成12年度
      システム経費 662億8900万円 726億4900万円 785億5300万円
      人件費 230億1100万円 231億2600万円 232億4200万円
      物件費 204億7600万円 168億4300万円 168億1300万円
      施設整備費 99億7500万円 100億0000万円 100億0000万円
      合計 1197億5100万円 1226億1800万円 1286億0800万円
      総計 3709億7700万円

    2.  上記推計所要経費の算定方法は以下のとおりである。
      1.  システム経費について
         平成10年度の「システム経費」は,同年度予算参考書中「登記情報管理事務に必要な経費」のうち「登記情報システム実施経費」(特定財源)の「小計」に該当するものである。
         平成11年度及び平成12年度の各「システム経費」は,上記の方法で算定した平成10年度の「システム経費」を基礎として,平成16年度末にコンピュータ化作業を完了させるという当時の計画(後に平成19年度末にコンピュータ化作業を完了させる計画に変更。)に基づき平成11年度及び平成12年度にかけて予定されていたコンピュータ稼働庁数,バックアップセンター稼働庁数及び移行作業庁数等を推定して積算したものである。
      2.  人件費について
         平成10年度の「人件費」は,同年度予算参考書中「登記所等管理に必要な経費」のうち「既定定員に伴う経費」の「人件費」(特定財源)の小計,「増員要求に伴う経費」の「人件費」(特定財源)の小計及び「振替定員に伴う経費」(特定財源)の小計並びに「機構経費」のうち「児童手当」(特定財源)の小計を各合算したものである。
         平成11年度及び平成12年度の「人件費」は,上記の方法で算定した平成10年度「人件費」に人事院勧告における給与改定率を考慮して1.005を乗じて積算したものである。
      3.  物件費について
         平成10年度の「物件費」は,同年度予算参考書中の「登記所等管理に必要な経費」のうち「既定定員に伴う経費」の「人当経費」(特定財源)の小計,「機構経費」(特定財源)の小計(ただし,このうち「児童手当」(特定財源)の小計2076万5000円は,既に「人件費」として計上しているのでこれを控除した。),「庁舎維持管理経費」(特定財源)の小計,「小規模登記所充実経費」(特定財源)の小計,「法務局通信ネットワーク整備経費」(特定財源)の小計及び「登記情報管理事務に必要な経費」(特定財源)の小計(ただし,そのうち「登記情報システム実施経費」の662億8888万9000円は,既に「システム経費」として計上しているのでこれを控除し,「債権譲渡登録事務処理経費」の2億1581万9000円も控除したもの。)並びに「登記の審査等事務に必要な経費」のうち「登記事務処理諸経費」(特定財源)の小計を各合算し,さらに,「国債整理基金特別会計へ繰入れに必要な経費」(特定財源)及び「予備費」(特定財源)の額を加えた上で,確定日付・抵当証券に係る経費相当額である1億4357万1000円を控除したものである。
        「登記情報管理事務に必要な経費」(特定財源)の小計(ただし,そのうち「登記情報システム実施経費」の662億8888万9000円は,既に「システム経費」として計上しているのでこれを控除し,「債権譲渡登録事務処理経費」の2億1581万9000円も控除したもの。)並びに「登記の審査等事務に必要な経費」のうち「登記事務処理諸経費」(特定財源)の小計を各合算し,さらに,「国債整理基金特別会計へ繰入れに必要な経費」(特定財源)及び「予備費」(特定財源)の額を加えた上で,確定日付・抵当証券に係る経費相当額である1億4357万1000円を控除したものである。
         平成11年度及び平成12年度の「物件費」は,上記の方法で算定した平成10年度「物件費」を基礎として,事業計画上各年度の対象庁数,コンピュータ及びその周辺機器等の台数,予算平均増加率等を考慮して積算したものである。
      4.  施設整備費について
         平成10年度の「施設整備費」は,同年度予算参考書中の「施設整備に必要な経費」の合計に該当するものである。
         平成11年度及び平成12年度の「施設整備費」は,上記の方法で算定した平成10年度「施設整備費」を基礎として,事業計画上各年度の対象庁数,コンピュータ及びその周辺機器等の第数等を考慮して予定数値に置き換えたものである。

(イ) 登記特別会計において,登記に関する事務処理経費のうち手数料の対象となる事務(登記簿の謄本,抄本,閲覧等の事務)の処理経費は,手数料等の特定財源によって賄われ,手数料の対象となる事務を除いた事務処理経費は,一般会計からの繰り入れによって賄われるとされている(乙2の233頁)。

イ 以上を前提に,本件手数料の算定につき,内閣の裁量権の逸脱があったと認められる否かについて検討する。
 前記(第3の2(4)ア(ア))のとおり,内閣は,本件手数料の算定根拠となる推計所要経費の算定について,平成10年度の予算参考書に基づいて平成10年度の推計所要経費を算定し,それを基礎として,事業計画上の対象庁数,コンピュータ及びその周辺機器等の台数,人員若しくは,人事院勧告による給与改定率,予算平均増加率等を考慮して,平成11年度,平成12年度の各推計所要経費を算定した。
ここで,登記特別会計予算は,財政法,登記特別会計法などの法令の規定に基づく所定の手続の中で,財務省(本件政令の制定時は大蔵省)と法務省の協議,調整を経て算定された金額を基に,閣議決定及び国会の審議,議決を経て成立するものであり,予算参考書は,国会の審議に先立って提出される参考資料で,その内容は予算予定額と評価し得るものである(前記のとおり,平成10年度登記特別会計予算は,同参考書とほぼ同様の内容で成立している。)ことに照らせば,内閣が推計所要経費を算定する際の数値として,平成10年度予算参考書の数値を選択したことは,同参考書に依ることが不相当であることがその選択時(本件基準時)において明らかであったなどの特段の事情がない限り,合理的な判断であったというべきである。
また,内閣は,前記(第3の2(4)ア(ア))のとおり,推計所要経費の積算に当たり,特定財源の事項の数値のみを積算しており,かかる事項は,手数料によって賄うことが予定されている事務処理経費と評価できる事項であるから(同(イ)),内閣が,平成10年度予算の数値のうち特定財源のもののみを基礎として積算していることも,合理的な判断であったというべきである。
そして,平成11年度及び平成12年度の各推計所要経費も平成10年度の推計所要経費を基礎にして,事業計画上各年度の対象庁数,コンピュータ及びその周辺機器等の台数,人事院勧告による給与改定率,平均予算増加率等を考慮して推計されており,その推計の方法も合理的なものと解される。

ウ 原告らの主張について
 これに対して,原告らは,推計所要経費の算定について,以下のとおり主張するが,以下に述べるとおり,いずれも上記特段の事情等に該当するものとはいえず,採用することができない。
  1.  システム経費について
     原告らは,平成10年度から平成12年度までの被告が見積もったシステム経費が約2160億円であるのに対し,平成10年度から平成12年度までの「システム経費」を構成する「登記情報処理業務庁費」及び「電子計算機等借料」の決算額の合計額が約1832億円であり,その差額が約328億円にもなることから,経費が過大に見積もられていたと主張する。
    しかし,本件において,裁量権の逸脱,濫用があったか否かは,本件基準時において,内閣が行った推計所要経費の算定の基礎となる数値の選択や算定過程に不合理な点があったか否かという観点から検討すべきであるところ,原告らの上記主張は,実際の決算額と推計所要経費を比較し,結果的に決算額と推計額に差額が生じていることをもって,システム経費の計上に過大な点があったとするものにとどまるから,上記数値の選択における不合理な判断を基礎付ける主張として失当である。
  2.  人件費について
     原告らは,コンピュータ化が進み,省力化がされ,法務局の数が減少しているにもかかわらず,人件費が減少しておらず,かかる不自然,不合理さからすれば,人件費について不必要な見積りがあった可能性があると主張する。
    しかし,前記のとおり,平成10年度から平成12年度までの「人件費」の算定は,平成10年度予算参考書に基づいて算定された平成10年度「人件費」及びこれを基礎にして人事院勧告における給与改定率1.005を乗じて算定された数値を積算して行われており,この算定過程に不合理な点はない。
    また,本件基準時においては,本来の登記簿謄抄本の交付等の業務に加えて,平成16年度末にコンピュータ化を完成させるための移行作業(P31協会に委託したもの以外のもの。)も行うことが予定されていたのである(乙17,18)から,人件費が減少していないことが不自然,不合理であるともいえない。
  3.  剰余金の存在について
     原告は,登記特別会計における剰余金の額が,平成10年度に約109億円,平成11年度に約65億円,平成12年度に約99億5000万円あり,3年間において約99億5000万円の剰余金が生じており,毎年33億円以上の登記手数料の過大計上があったと主張する。
     しかし,証拠(甲18~20)によれば,登記特別会計において,平成9年度の剰余金が約201億6000万円,平成10年度が約109億円,平成11年度が約65億円,平成12年度が約99億5000万円であることが認められ,登記特別会計法7条本文が,
    「この会計において,毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金が生じたときは,これを翌年度の歳入に繰り入れるものとする。」
    と規定するように,前年度分の剰余金は,次年度の歳入として繰り入れられることからすれば,平成10年度は,平成9年度の剰余金201億6979万円から91億円余り減少し,平成11年度の剰余金も,平成10年度の剰余金109億円から43億円余り減少していることになる。
    したがって,登記手数料を1000円としたことによって,平成10年度及び平成11年度の剰余金が増加したことを前提とする原告らの上記主張は,その前提を誤っており,失当である。
  4.  P31協会に対する委託費の過大計上について
     原告は,コンピュータ化の移行作業についてP31協会を通して民間会社に委託(再委託)するのではなく,民間会社に直接委託すれば,100億ないし200億円安い費用で済んだ可能性があり,推計所要経費の算定につき裁量権の逸脱,濫用があると主張する。
     しかし,証拠(乙17,18)及び弁論の全趣旨によれば,P31協会が民間会社に再委託しているのは,主としてコンピュータ化作業のうちの登記事項の原稿のデータ入力作業にとどまり,登記簿原本から現に効力を有する登記事項を抽出してデータに入力すべき登記事項の原稿を作成し,これが入力された後にデータ内容を確認して修正を加えた上で磁気ディスクに格納する工程などはP31協会が行っていることが認められるところ,原告らの上記主張は,この点を看過しており,その前提に誤りがある。
    しかも,本件手数料の推計所要経費の算定は,前記(第3の2(4)イ)のとおり,P31協会に対する委託費も含めて,平成10年度予算参考書の数値を基礎に積算されているのであるから,仮に,事後的に,P31協会に対する委託費の計上に一部過大な点が認められたとしても,内閣による推計所要経費の算定が不合理なものであったことにはならない。
  5.  登記情報提供システムについて
     原告らは,本件基準時において,登記情報提供システムの運用が予定されていたのであるから,内閣が,本件手数料の算定に当たり,登記情報提供システムからの収入を考慮しなかったことが違法であると主張する。
     しかし,登記情報提供システムは,電気通信回線による登記情報の提供に関する法律(平成11年12月22日法律226号)に基づいて定められ,登記情報を電気通信回線を使用して提供するシステムであり(同法1条参照),同法の施行は,平成12年4月1日であり,同法に基づいて,登記情報を提供するサービスが開始されたのは,同年9月25日である(弁論の全趣旨)。
    このように,登記情報提供システムは,本件基準時(平成10年4月1日)において,その根拠法令が制定されておらず,その制度の具体的内容も定まっていたとはいえない以上,内閣が推計所要経費の算定に当たり,上記システムからの収入を考慮しなかったとしても,その判断が不合理であったとはいえない。

エ 以上のとおり,本件手数料の算定根拠たる所要経費の算定過程において,内閣が算定の基礎とした数値の選択や算定方法に不合理な点があったとはいえず,裁量権の行使に逸脱,濫用があったとはいえない。

(6) 予備的請求原因について

 原告らは,平成12年度末及び平成16年度末の登記手数料の見直しの際,登記特別会計に過大な剰余金が生じていたにもかかわらず,内閣が本件手数料を減額する内容に本件政令を改正しなかったことが裁量権の逸脱,濫用であり,本件政令は無効であると主張する。
 しかし,原告らが主張する事実を前提としても,平成12年度末及び平成16年度末の時点で本件政令を改正しなかったことにより,本件政令が直ちに無効となる法的根拠は見出し難く,原告らの上記主張は,主張自体失当である。

(7) このように,本件政令が不動産登記法119条3項の委任の範囲を逸脱したものとはいえず,本件政令は適法というべきである。


3 争点(3)について

 控訴人らは,本件手数料が,コンピュータ化への移行経費及び公用請求分の無料化にかかる経費を見込んで定められており,実費弁償を超える部分があるから,役務の反対給付という性質を超えており,手数料ではなく,租税に転化しているとして,本件政令は,租税法律主義に反し,憲法84条に違反し,無効であると主張する。
しかし,前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中第3の1のとおり,そもそも不動産登記法119条3項は,登記手数料の額を定めるについて,『実費』のみならず,『物価の状況』,『その他一切の事情』を考慮すべきことを規定しており,内閣は,法律の委任の趣旨に反しない限り,その裁量権に基づいて,登記事務のコンピュータ化への移行経費及び公用請求分の無料化に必要な費用を見込んで登記手数料の額を定めることができると解される。
そして,前記引用に係る原判決の「事実及び理由」中第3の2(2)及び(4)における認定,判断によれば,不動産登記法119条3項の委任に基づいて登記手数料令2条1項が定めている本件手数料の額は,役務の反対給付の性質を逸脱していないというべきであるから,本件手数料の一部であれ,租税に転化しているということはできない。  したがって,本件手数料を定める本件政令が憲法84条に違反するとの控訴人らの主張は,その前提を欠くというべきであって,理由がない。

4 結論

よって,本件政令が違法,無効であることを前提とする原告らの請求(1),同(2)ア及び同(3)アは,その理由がないから棄却することとし,原告らの請求(2)イ及び同(3)イに係る訴え(義務付けの訴え)は,上記請求(2)ア,同(3)アが認められず,訴訟要件(行政事件訴訟法37条の3第3項2号参照)を欠く不適法なものであるから却下することとし,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第7民事部
 裁判長裁判官 廣谷章雄
 裁判官 森鍵一
 裁判官 棚井啓


第4 結論

 よって,本件政令が違憲,違法,無効であることを前提とする控訴の趣旨2項(1),(2)ア及び(3)アの各請求は,いずれも理由がないから棄却すべきであり,同(2)イ及び同(3)イに係る訴え(義務付けの訴え)は,上記(2)ア,同(3)アの各請求が認められず,訴訟要件(行政事件訴訟法37条の3第3項2号参照)を欠く不適法なものであるから却下すべきところ,これと同旨の原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。


大阪高等裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 成田喜達
 裁判官 亀田廣美
 裁判官 小倉真樹は,填補につき署名押印できない。
 裁判長裁判官 成田喜達