S54/06/05 参議院 法務委員会




寺田 熊雄君


vs


法務省民事局長  香川 保一君





寺田熊雄君 これは民事局長にお尋ねをしますが、今回の土地家屋調査士法の一部改正法、一番問題となるのは、やはり第3条の資格取得条件の問題だろうと思いますが、常識論から申しますと、従来の土地家屋調査士試験に合格した者、これが資格を取得するということになっておりましたのに、第2号が加わりまして、法務局、地方法務局両方を通じて10年以上在職した者、しかも不動産の表示登記の事務に従事した者と。


これはいわば特別な資格取得条件となるという点なのでございますが、常識論から申しますと、土地家屋調査士会の方が反対するだろうということが考えられるわけですね。


これは土地家屋調査士だけではございません。


司法書士の場合も同様でありましたし、非常にいまやかましい税理士の場合も同じなんですね。


ところが、いずれも会それ自体はこういう改正案に賛成をするという、常識をちょっと外れた結論になっておるようです。


これは税理士会もしかり、それから司法書士会もそうでありましたし、今回の土地家屋調査士会も同様のように思われるわけですね。


しかし、そうは申しましても、雑音が私どもの耳に全く聞こえないかというとそうではありません。



税理士会などは非常にやかましい雑音が会の内外から聞こえてまいりますし、今回のこの土地家屋調査士につきましても、これは朝日新聞の428日の論壇欄に、これは東京土地家屋調査士会副会長、大橋光雄さんという方の投稿があったわけであります。


 そういういろんなことを考えてみますと、何かこう割り切れないものが残るのですが、今回の法改正について土地家屋調査士会がどのような対応をとったのか、ちょっと局長に御説明いただきたいと思います。



政府委員(香川保一君) 御承知のとおり、昨年の通常国会に司法書士法の一部改正法律案の御審議を願ったわけでございますが、本来ならば同じような性質のものでございますから、昨年の通常国会に土地家屋調査士法の一部改正法案も提案すべきだったと思うのであります。


 ところが、ただいま御指摘の、いわゆる特認制度をめぐりまして調査士会の内部に相当強い反対意見がございまして、さような反対意見の言わんとするところも必ずしも当を得てないという面ばかりじゃないわけでございまして、私どもといたしましては、十分そこのところを御理解をいただいて円満に法案を提出するということにいたしたいと考えまして、昨年の提案を見送ったわけでございます。


参議院の法務委員会におきまして、司法書士法の一部改正法案の附帯決議として同様の法律案を、土地家屋調査士法の改正法案は早急に出せという附帯決議もちょうだいしたようないきさつがあるわけであります。


 確かに昨年そういった反対意見が出てまいりましたのは、私どもにも十分その対話と申しますか、議論をすることの努力が足りなかったと反省するわけでございますが、反対の意見の主なものは二つあるわけでございまして、一つは、現在の法務局の職員に果たしてその土地家屋調査士としての業務を十分やれる技能、能力があるかどうか。


これは主として調査測量関係の技術面での能力でございまするが、それに対する危惧があることが一つ。


 もう一つは、これは私どもに対するある意味での不信感だと思いますけれども、特認制度が設けられると多数の特認制度を利用した土地家屋調査士が生まれてくると。


さようなことからいわば共食いと申しますか、需要に対する供給が過剰になってお互い首を絞めることになるんじゃないかというふうな危惧があると思うのであります。


 この二つが私どもとしては反対理由として受けとめておるわけでございますが、前者につきましては、理屈は、土地家屋調査士の調査測量及びその結果に基づく登記申請事件の審査を登記官がやり、必要があれば実地調査もするということに法律はなっておるわけでありますから、法律面だけから見ますと、形の上では土地家屋調査士と同程度、あるいはそれを上回る能力を備えてなければならぬ。


法律はそういうことを所期いたしておるわけでございますが、現実の問題としてかような不動産の表示に関する登記制度が新たに登記所の事務になりましたのが戦後でございまして、まだ30年そこそこでございます。


そういうことから、なかなか十分その面での職員の能力がまだ開発されてないということは確かにあるわけでございます。


 で、むしろその理由は、片や司法書士の方は特認制度が初めからあるわけでございますが、土地家屋調査士法の方はそれがないということが、これは理屈を抜きにいたしまして、職員の表示に関する登記制度に対する熱意と申しますか、刺激というか、そういったものが欠ける原因にもなっておると私どもは理解するわけでございます。


 したがいまして、職員自身がそういった表示に関する登記手続、法律面はもちろんでありますけれども、実施の調査測量というふうな技能面の習得をみずから努力するということが何よりも大事なわけでございまして、そういう意味合いから申しましても、一つの刺激として特認制度を設ける必要がある。


そういうことによって、それよりもさらにそういったいろいろの制度の運用におきましての表示登記制度の充実ということは同時に図らなければならぬわけでありますが、そういったことをやっていくことが、結局は不動産の表示登記制度、したがって、土地家屋調査士制度の充実発展につながる問題だということを十分土地家屋調査士会連合会、その他にもお話し申し上げたわけでありまして、そういうことで職員の技能の向上を図っていくということから、御承知のとおり法案におきましても、10年を通じて表示に関する登記事務に従事した者という要件を最小限かぶせまして、さらに附則におきまして、附則第4項でございますが、当分の間、法務大臣は技能面の試験をすると、これは司法書士法にはないことでございます。


そういったことと同時に、その運用面におきましても、土地家屋調査士会の懸念されるようなことのないように十分配慮していくというふうなことを十分議論いたしまして、その面は御了解を得たと思うのであります。


さらに粗製乱造と申しますか、需要と供給のアンバランスが生ずるという面につきましては、これはもちろん国家試験制のもとでどの程度そういう調整ができるか相当理論的にも問題があると思いますけれども、やはり制度の円滑な運用という意味からは需給のバランスをとることを十分配慮しなきゃならぬということも十分話し合いまして、さような結果、土地家屋調査士会あるいは連合会におきまして今回の法案について十分理解を得まして、去る3月当初の連合会の臨時総会におきまして、この法案を賛成といいますか、むしろ早急に法案が成立するように願いたいというふうな陳情までされるようなことになったわけでございます。


 したがいまして、一部にはなおいろいろの危惧を持っておられる方もおられるとは思いますけれども、大勢としては十分この法案の趣旨の御理解を得て円満に法案提出に至ったと、かような経緯でございます。



寺田熊雄君 いまの局長の御説明で、この法案が上程せられるまでのいきさつが大体わかりましたけれども、ただ、先ほどお話をいたしました大橋光雄氏のこの投稿の中にこういう文言がある。


これはもう局長もお読みになったでしょうが、

 全国の土地家屋調査士とその連合会は、このような理由などで反対を唱えてきたが、法務省はほとんど耳を貸すことなく、かえって業界に対して、法務省案の国会提出に同意するよう過去1年、圧力を加えつづけてきたのである。

 業界側は、法務省の圧力に押され、やむなく一つの妥協策として、当分の間試験科目の一部を課するとする条件をつけて、この趣旨で原案を修正することで了解することをのんだ。


こういうような一節がありますね。


その圧力なるものの内容として、土地家屋調査士の業務報酬の認可権、これが法務大臣に所属していると、ところが3年以上据え置かれたこの調査士の報酬改定がなかなか法務省の認可を得られない、それで並行してついにこういうような妥協のやむなきに至ったと、そういう趣旨の説明があるんですね。


 そうなると、これが事実かどうかという問題なんですがね。


事実だとすると、ちょっと何かこう少しフェアな感じがしないでしょう。


つまり土地家屋調査士の弱点につけ込んで、そしてこの改正案を直しちゃったんだと言わんばかりの口吻がこの行間ににじみ出ておりますね。


この点やっぱり民事局長にちょっと御説明いただかないといかぬと思うんですが、どうでしょうか。



政府委員(香川保一君) その提言をされておる東京土地家屋調査士会の副会長大橋某は、私は一度も会ったことないんでありますけれども、従来から法案に対して反対の急先鋒であったように聞いておりますし、そこに出ておりますその報酬問題云々というのは、これはちょっと細かくなりますけれども、現在の報酬規程が改正されましたときに東京会だけ1年おくれて改正されておるわけでありまして、これは全国的には連合会が改定の内容を決めまして、そして法務大臣に認可申請をされたのでありますけれども、東京会だけはその連合会案なるものに対して反対だということですったもんだいたしまして、結局連合会案どおり1年おくれて報酬が認可された経緯がございますが、そのときにもその大橋某がやはり中心に反対をしたというふうに聞いております。


 私どもとしては、報酬改定をてこにしてと申しますか、あるいは圧力の材料にして法案をのめというふうなそんなけちなことをやるつもりは毛頭ありませんし、またやるべきことでもないことは明らかでありまして、ちなみに報酬の問題について申し上げますと、一昨年暮れに連合会から一つの報酬改定案というものが出てまいったわけでございます。


その当時私どもも、確かに土地家屋調査士の報酬規程というのはどうあるべきかということは非常にむずかしい問題でございまして、連合会の案も一つの考え方ではあると思うのでありますけれども、この報酬改定案をそのまま認めますと、場合によっては倍、物によって5割ぐらい報酬がアップされることになるわけでございますし、これは表示登記というものが国民に義務を課しておる、科料の制裁のもとで義務を課しておるものでございますので、それを代行する調査士の報酬というものもすぐれて公共的な性格を持つものであり、現に内閣におきましては公共料金に準ずるものとして扱っておるわけでありますから、これが余りに上昇、アップ率が高いということは、やはり国民の負担がそれだけふえるわけでございますから、ここのところは一つ問題ではあるわけであります。


それと同時に、この報酬規定違反事件というのが比較的多うございまして、さようなことから報酬規程の遵守ということをやかましく言っておるのでありますけれども、そういうことが守られるかどうかの国民の側からの監視の目と申しますか、そういう立場から申しますと、報酬規程は一目瞭然といいますか、一覧性のあるわかりやすいものでなければならぬという面が確かにあるわけでございます。


 

歴史の中では、元公務員に対する特認の他に、補助者に対する特認を認めるべきではないか、という議論もあったようである。

 

○宮崎正義君 弱いところは絶対にありませんので、どうかひとつその点強力に予算措置をして、体制が整わなかったら、これお困りになるのは、法務省が困るわけなんです。

法務大臣がお困りになる。

国民が一番困るわけです。それを一つ念頭に置かれまして、弱い立場じゃなくて、強い立場でひとつよろしくこの点は強力に予算要請をしてやっていただきたいことを要請しておきたいと思います。


 それから、次には特認制度のことでございますけれども、特認制度のことにつきましては、寺田委員からるるお話がございました。

そこで私は角度を変えまして、司法書士会のときにも、補助者ということについて私は相当強力に局長に要請をいたしました。

今回もこの補助者の問題につきましては、私は私なりの考えがあるんでございますが、これは全く国民の立場の上から申し上げるわけですが、補助者の特認制度ということも相当考えていっていいんじゃないかというふうに私は思うのです。

と申し上げますのは、私が仮に調査士であって一戸を構えております。

若い人たちが、その補助者がいるわけです。

しかも補助者は法務局長がこれは認可をしているわけですね。

認可といいますか、任命しているといいますか、そういう立場で私のところに認可されている補助者がいるわけです。

私はだんだんごらんのように年とってきますと、その調査しましたものが、二十年前のこと、あるいは三十年前のこと、十年前のこと、歴史はその調査した案件についてぴしっと保存されてあるはずです。

私が死にました。

その今度後でいろいろな諸問題が起きたときに、裁判上の問題が起きたときに必ずその調査をした案件というものが引っ張り出されるわけです。

そのときに、私は死んでしまった。後がいない。

その時分に一緒になって苦労したその補助者というものが一生懸命やった。私が死ぬときには、それが二十年くらいたっている。

二十五年ぐらいたっている。相当な知識がある。

試験を受けた。何回も受けた。

だめだ。

実力はそれはもう申し分ないほど持っている。

こういう補助者に対するやっぱり跡継ぎということは、後継者といいますか、とにかくそういう国民の財産をきちっと法の位置に位置づけたものを保存している、その立場の補助者として、調査士が死んだ場合、私なら私が死んだ場合に、その人たちが何ら恩典を与えられてないというようなこと、これは報酬の問題につきましても、ずいぶん問題があるんです。

補助者の方々の問題、もう調査士の方は精いっぱい、目いっぱいにいま給料を与えようとしているわけです。限定された枠の中でやっているわけですから、相当な苦労をなさっているわけです。

その中で一生懸命に、十年、十五年、二十年として、その実績を積み上げてきているという、そういう方々にもやはり私は、今回の特認という制度を設けた以上、補助者に対する考え方も、連合会あたりの、連合会会長の何年間表彰、二十年間表彰とか二十五年間表彰とかというような方々の表彰制度があるかどうか私は知りませんけれども、きょう参考人の方が見えますのでそういう点も聞いてみますけれども、そういう方がやはり司法書士の補助者と同じような考え方をしてあげるのが民事局長の言われる車の両輪のお考えになるんじゃなかろうかと私は思うんですが、いかがでございますか。

○政府委員(香川保一君) おっしゃるとおり、司法書士、土地家屋調査士の補助者の処遇の問題といたしまして、お説のとおり、私はやはり特認制度をそこまで拡充すべきだというふうに考えるわけでございます。


 補助者の処遇、これは私どもが口を差しはさむべき問題ではないかもしれませんけれども、司法書士、土地家屋調査士がそれぞれ雇用しておられるその待遇というものは、必ずしも十分でないんじゃないかというふうに見ておるわけでございまして、そういった補助者としての待遇の改善のみならず、やはり将来の希望を持つ意味での特認制度はぜひ考えるべき問題だというふうに私は認識いたしておるつもりでございます。

ただ、遺憾ながら両連合会、特に司法書士連合会におきましては、この補助者の制度を外せと、つまり、現在地方法務局の長が承認ということでやっておるわけでございますが、これをも撤廃しろというふうな強い御要望があるわけでございます。

どうしても特認制度を設けるといたしますと、法律にその補助者が顔を出さなければこれはいかんとも規定しがたいわけでございまして、したがって、法律にそういった補助者の制度を公認いたしまして、そしてそれに特認制度を認めるというふうな方向に持っていくべきだろうと思うのでありますが、補助者制度そのものについて、現在の法務局長の省令による承認制度というものも反対だと、むしろそういうものは個々の司法書士、調査士が独自に考えて雇えばいいんだと、あるいは百歩譲って、各単位会で承認するというふうなことでいいんだと、こういうふうな意見が非常に強く出ておりまして、遺憾ながら、法律に顔を出す、持ち上げるというところまでにとうていいかない現状なんであります。


 ただしかし、何とか彼らの処遇の面のみならず、おっしゃるように、やはりそれぞれの調査士の仕事には土地との密接な関係がある、歴史があるわけでございますから、そういうものを維持する意味から申しましても、後継者というふうな意味から特認制度を考える必要はあろうというふうに考えておるわけであります。

この点は今後とも調査士連合会あるいは司法書士連合会ともよく協議いたしまして、先ほど申しましたけれども、彼らの理解を得た上でさような措置を考えてみたい、かように考えておるわけでございます。


○宮崎正義君 お話はわかりましたけれども、これは昭和五十四年四月十三日、日本土地家屋調査士会連合会会長多田光吉という方から、副会長とか常任理事とか理事とか監事とか、そういう「土地家屋調査士法の一部改正についての附帯要望事項等について」というものを出しております。

その別紙の中にこういう意見も明らかに出ているわけですが、試験制度改善について、左記事項を検討し、土地家屋調査士の資質の向上を図ること。


  1 調査に関する試験の実施
  2 口頭および実技試験の導入
  3 法第五条ただし書中「調査」の削除
  4 試験時間の延長および内容の充実
  5 補助者の実務経験を配慮した受験資格の設定


 こんなふうなことが出ているわけでありますがこのことにつきまして民事局長の方に送られているわけでありますね。

そうしましたら、民事局長の方からは四月十一日に、「法務省民事局長」、「日本土地家屋調査士会連合会長殿」として、一部改正についての回答というふうにあれが出ておりますが、これを見ますと、別紙第一の附則を付すること、別紙第二の運用基準によるものとすることについては、異存がありません。


  別紙第三の要望事項については、要望の趣旨に沿いその実現に努力をいたします。


  なお、別紙四については、そのような意見があったことを十分に考慮いたします。


 という御返事を出されているのは御存じでございますね。

 そうしますと、こういう面も御存じの上で、いまの私に御答弁なさったのは、これを踏まえての御答弁なんですか。


○政府委員(香川保一君) そのとおりでございます。


○宮崎正義君 そうですが。

そうであれば私は、連合会の方もこの補助者については相当な要請があるというふうに見る以外に私はないと思うのです。

しかも、北海道の方では決議文まで出して、この補助者に対する考え方というものを真剣に取り上げてもらいたいということまで出しておるのを私は拝聞しているわけです。


 いずれにしましても、そういう意味で補助者というものに対する考え方というものを煮詰めて、連合会の方とも、そのほかの関係の方々の中においてもお話し合いをして進めていっていただきたいというふうに思いますが、重ねて御意見を伺っておきたいと思います。

○政府委員(香川保一君) この問題について今後とも土地家屋調査士連合会と協議を続けてまいりたいと、何とか実るように努力いたしたいというふうに考えております。